第29話:咲夜、怒る



「ターン終了だよ~。大したことないねぇ」

「なっ、なんですって!」

「マリアちゃんっ‼」



 またしても祭と言い争う勢いのマリアに咲夜は声を張り上げる。


 怒りのようなそれに似た感情の篭った声に祭とマリアはぴたりと口を閉じた。目を丸くし、咲夜のほうを向く。


 咲夜の表情は厳しいものだった。睨むでもないく、それでも威圧的な瞳を向けている。思わずマリアは引いてしまった。



「いい加減にしてください‼ 少しは落ち着いてよ、マリアちゃん! マリアちゃんが怒る気持ちも分かりますよ。でも、カードファイト中は落ち着いてください!」



 溜まりに溜まっていた想いを咲夜は吐く。いい加減にしてほしい、こんなふうにカードファイトはするものじゃないと。



「あと、祭くんもですよ。パフォーマンスとか言って、ただマリアちゃんを煽っているだけじゃないですか! そんなのをパフォーマンスとはいいません。プロトーカーでアイドルなんですよね? ならもっと輝いて対戦相手も楽しませてください!」



 こんなの面白くもなんともないです。咲夜は声を大にする。パートナーを煽られていい気がするわけがない。さっさと終わらせたい、そんな態度でカードファイトはしたくない。


 そんな気持ちで、態度でカードファイトはするものではない。もっと楽しく、真剣にやるものだ。そんな咲夜の言葉に菖蒲はうんと頷いた。



「……彼女の言う通りだ、祭」

「菖蒲お姉様っ⁈」


「祭、お前が西園寺さんを敵視しているのは構わない。が、彼女には関係ないだろう」



 祭とマリアがこうして戦うことになるのは今に始まったことではない。少しすれば落ち着く、そう菖蒲も思っていたがその様子はなくて。


 咲夜の言葉を聞き、流石に黙っていてはいられなくなったのだ。少しすれば落ち着くかと思って黙っていたがと菖蒲は厳しい眼を祭に向ける。



「私たちはプロトーカーだ。観客だけでなく、対戦相手も楽しませなくてはならない。お前もアイドルなのだろう。少し考えれば分かるはずだ。彼女が口にしなければ私がしていたぞ」


「……はい」

「申し訳ありませんわ……」



 二人はしゅんとしたふうに肩を落とす。言われて気づいたのだろう。自分たちの態度がどれだけ相手に失礼だったのか、気分を害する行為だったのかを。


 反省しているように二人は謝罪する。



「私からも謝罪する、すまない」



 君が嫌ならこの勝負、止めにすることもできるがと菖蒲は提案する。その申し出に咲夜は首を左右に振った。



「いえ、大丈夫です。一度受けた勝負は最後までやり遂げたいんです」



 受けたからには投げ出さない、最後まで遣り通す。それが咲夜の決めたことだ。例え負け試合になろうとも、逃げたりはしない。


 咲夜はオルターを構え、カードを引く。



「マリアちゃん」



 引いたカードを見遣り、咲夜はマリアに言う。



「信じてください」

「…………わかりましたわ」



 何を。そう問わなかったのはきっとタッグファイトのことだろうと。パートナーとの連携が重要になるこのルール、相談は許されない。だから、パートナーを信じるしかない。


(……すっかり忘れてました)


 通常ルールのように戦ってしまった、二人で戦っているはずなのに。マリアは自身の行動を反省する。



「私は魔法カード、【常夜の導き】を発動! セメタリーからモンスターを一体、手札に加える。私が加えるのはダスク・モナーク! そして、手札のモンスター効果を使用!」



 ぽんっと黄色い帽子を被ったコピットが出てきたかと思うと三体に分裂し、セメタリーへと送られる。



「常夜の国―妖精コピット03の効果! 進化モンスターを召喚する時、このカードをセメタリーに送ることで条件を満たしたことになる!」



 深淵より姿を現す。黒く一つに結った長い髪を靡かせ、ダスク・モナークは手にした大鎌を振った。



「そして私は条件を満たしたことにより、防壁カードを発動!」



 深い夜の景色、そこに淡く光る桜。一面を舞う桜吹雪にフィールドは姿を変えた。全ての生きとし生けるものを誘うように枝が揺れる。



「初期防壁カードをセメタリーに送りセット。咲き乱れ、黄泉桜!」



【防壁カード黄泉桜の効果始動


 ①このカードはセメタリーに死霊族モンスターが五体以上存在し、防壁カードが二枚以上配置されている時、その防壁カードを一枚セメタリーに送りセットしてもよい。その場合、自身のフィールド上の死霊族の攻撃力は+800される】


 ダスク・モナークの攻撃力が上昇する。そして、さらに効果を発動させた。



「黄泉桜のさらなる効果、一ターンに一度、セメタリーからモンスターを一体、召喚することができる。その効果で召喚されたモンスターは攻撃力+500される。また、召喚されたモンスターの種族が死霊族で無い場合、死霊族が追加され、さらに攻撃力+200される!」



 桜吹雪が舞ったかと思えば一瞬、白き氷のドレスを纏うスノー・ブルームが舞い降りる。


 ダスク・モナークの隣に立つとスノー・ブルームはふっと微笑んだ。


【黄泉桜の効果により氷の女帝―スノー・ブルームを召喚


 スノー・ブルーム―スノーワールドの効果合わせ、攻撃力4500】



「なるほど、セメタリーにカードを送ったのは切り札を素早く手にするだけではなかったということか」



 菖蒲は咲夜たちのセメタリーを確認し納得したように頷いた。


 そして、咲夜はスノー・ブルームでキャットガールに攻撃を指示する。その言葉に祭は何故? と目を丸くした。


 スノー・ブルームの息吹が襲う。ガードを試みるもキャットガールは破壊されてしまった。



「黄泉桜のさらなる効果、死霊族モンスターの相手モンスターへの攻撃はHPオーバー分貫通する。死霊族を追加されたスノー・ブルームの攻撃は貫通します!」


「にゃんとっ」



 スノー・ブルームの息吹はキャットガールを貫通し、祭たちのランパートを襲う。ランパートは凍りつく。


【菖蒲・祭ペア ランパートー残り(4150)】



「うぅ、魔法効果なら防げたけど、防壁カードの効果はむりぃ」



 キャットガールの効果は魔法のみが対象であるため、防壁カードには使用できない。祭は悔しそうに制服の裾を噛む。


 続くダスク・モナークの攻撃はセイント・ローズが防ぎきった。


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