一目惚れしたカードのモンスターは今日も素敵だ

エピローグ:憧れとともに



 昼休みに入り、お弁当を鞄から出していた咲夜に神威は言った。



「別に本気じゃなかったぞ」



 彼の口から発せられた言葉に咲夜は目を丸くする。


 神威はカードファイトをしてみたいと言いつつ、自身から他のトーカーに声をかけない咲夜に喝を入れたかっただった。対人戦に慣れさせるために脅しただけで、本気で貸すのをやめるわけではなかったのだと種明かしをした。



「な、なんですか、それー」



 あんなに頑張ったのにと愚痴る咲夜に神威は何を言ってるんだと机に頬杖をつく。



 「モナークはお前のだぞ」



 その言葉にへ? と思わず言葉が零れる。



「俺はお前が自分から声をかける耐性をつけるために脅しただけで、嘘は言ってねぇぞ」



 だから、あの時の「ビギナーに上がれたらダスク・モナークの正式なマスターにする」は本当のことだと神威は答える。


 そう言われ、いやでもと咲夜は口篭もる。ダスク・モナークは高価なカードである。それを貰ってしまうのはどうなのだろうかと思わなくもない。


 けれど、神威は嘘を言っている様子はなくて。ダスク・モナークを咲夜に渡すだろう。ただ、いざ、貰えるとなると本当に良いのかと不安になる。



「あぁ、それなら問題ない」



 咲夜の心配していることを察してか、神威は一枚のカードを取り出した。それは咲夜が使わないからと神威に渡した忘れられたカードの一枚、ドジっ子ピヨコである。



「これの価格、ダスク・モナークと同じだ」

「うっそっ⁈」



 グラン戦で神威が使用したことにより、パックの解析が行われたらしい。未完成ではあるがリストが作られ、値がついたのだと。その中でもレア度が高く、数の少ないピヨコは価格が高騰していた。



「レア度、ギャラクシーだからな、こいつ」



 能力も強く、レア度と合わさり価格が高騰したのだという。よくあの短い発売期間で当てれたなと神威は笑っていた。



「ちなみにこれと同じパックに入っていたとされる、最大レア度のスーパーノヴァのカードはもっと高いぞ」


「えぇ……」



 発売期間が短ければそれだけ値が上がると聞いてはいたがこれほどまでかと咲夜は驚き入る。


 けれど、それはいつもお世話になっている礼として渡したものである。だからと言いたげな咲夜に神威は馬鹿かと頭を小突かれた。



「こんなもんをタダで貰えるか、馬鹿。いいから、カードとオルター貸せ」



 神威はまだ「でも……」と言う咲夜からカードとオルターを引き剥がした。自身のオルターと繋ぎ作業を始める。暫く操作しているとピロンという機械音が鳴る。



「これでダスク・モナークはお前のモンだ」



 カードとオルターが返される。オルターには本登録完了と記載されていた。


 本登録、それはダスク・モナークを正式に手に入れたという証。咲夜は震える手でオルターを掴むと装着する。


 ふっと、ダスク・モナークがホログラム化した。それはいつものように腕を組み、浮遊している。



「お、おぉ……うあぁぁ……」

『相変わらずな態度だな、マスターよ』

「あぁぁぁぁあ、マスターって、マスターって!」



 咲夜は悶える。机に突っ伏しながらダンダンと叩いていた。咲夜の様子にマリアはお弁当を片手に近寄ってきた。



「正式なマスターになったようですのね」

「あぁ……まぁな」



 身悶える咲夜をマリアは若干、引きつつ眺める。教室にいる生徒も生暖かく、異様なものをみつけたようであった。



『マスターよ』

「は、はいっ!」



 ダスク・モナークに呼ばれ、姿勢を正す咲夜。ふっと可笑しそうに息をつき、ダスク・モナークは言う。



『よろしく頼むぞ』

「こ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ!」



 咲夜はダスク・モナークに深くお辞儀をすると微笑んだ。


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