おまけ

幸せすぎて死んでしまいそうなんですが



「あぁぁあああ」

「どうしたんですの、あれ」

「ダスク・モナークをパートナーに出来て幸せすぎておかしくなったらしい」



 咲夜は机に突っ伏しながら呻く。そんな様子にマリアは痛々しいものを見る目を彼女に向けた。神威の話を聞いてなるほどなと思いながらもその視線は変わらない。


 咲夜は憧れだったカードを手に入れた。そして、夢だったパートナーにすることができたのだ。もう無理だと思っていた咲夜にとって、それは信じられないことである。何度もオルターを眺めては呻いている。


 それほど嬉しいのだろう、表情がとんでもなく緩んでいた。そんな緩みっぱなしの顔にマリアは台無しですわよと声をかける。そう指摘されて気づいたのか、咲夜はあわわと頬を押さえた。



「嬉しい気持ちは分かりますが、他所からみたら怪しいですわよ」

「うえぇ、そうかな」

「かなり怪しいぞ」



 隣に座る神威はポニーテールに結われた長い紅髪をだらりと机に垂らし、頬杖をつきながら呆れたように言う。パートナーとなってからの咲夜の奇行というのは教室内では日常となっている。クラスメイトたちは「あぁいつものだな」と生温かく見守ってくれているに過ぎない。


 他所から見ればそれはそれは怪しく見えるだろう。そう聞き、それほどなのかと咲夜は何度も頬を擦った。


 でも、これは仕方ないのだ。だってずっと憧れていたカードが手に入ったのだから、こうなってしまうのは仕方ないことのはずだ。よく考えてみてほしい。幼い頃からずっと想っていたのだぞ、そうなってしまうのは当然だろう。


 そう力説する咲夜に分からなくはないですけれどとマリアは返す。けれど、顔に出すのはやめたほうがいいのではないだろうか。そう神威は思うも口には出さなかった。



「マスターって言ってくれるんですよ」

「そうですわね」

「仮初じゃなくて、マスターって!」

「分かりましたから落ち着いてくれます?」



 これがどれだけ嬉しいことかと咲夜は机を叩く。流石、初恋をダスク・モナークに捧げただけはある。パートナーとなってからの小さな変化に気づいているのか、いろいろと言い始めた。


 語りだしたら止まらない様子にもういいですからとマリアは咲夜の頬をつねる。アナタがどれだけダスク・モナークのことが好きなのか分かりましたからと。



「痛いじゃないですかー」

「好きな気持ちはわかりましたからちょっと落ち着いてくれます?」

「うぅ……だってぇ」

『どうかしたのか、マスター』



 マリアの言葉にしょんぼりとしていた咲夜にダスク・モナークが反応してか姿を現す。ホログラムに透ける彼であるがその格好の良さは健在だ。咲夜はあぁと頬を押さえながら何でもないんですよと返事をする。



「こうやって心配してくれるとことか、もうっ」

「あー、はいはい」

「これはもう駄目ですわね」



 マスターを不思議そうに見るダスク・モナークと、それに悶える咲夜。そんな彼女を眺めながら、神威とマリアは突っ込むのを諦めたように苦笑した。



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レコード・トーカー〜初心者カードゲーマーと運命のカード〜(改題) 巴 雪夜 @tomoe_yuya

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