第24話:引きの良さ



 子供のような理由だった。格好いい、綺麗だ。感動にも似た感情が湧いた、彼を見て。一目惚れしたのだ、その圧倒的な姿に。


 単純だったと言われればそれまでだ。けれど、それでもレコード・トーカーを知れて、いろんな物語を知るきっかけを作ってくれたのは彼だった。


 その彼を、ダスク・モナークをもう一度。その想い。



「私は魔法カードを発動!」



 使いこなせていないじゃないか。活躍させることができていないじゃないか。そんなものは解っている。自身に力がないことも、それでも。それでも、この想いは変わらない。


 魔法カードの効果により、カードを一枚ドローした。



「……常夜の国―マリーを召喚し、魔法カードを発動! 自フィールド上のモンスターを一体、セメタリーに送ることで相手のモンスターを一体、破壊する!」



 マリーゴールドのような少女は登場と共にセメタリーに送られる。その間際、カードを一枚咲夜に手渡した。



「マリーの効果! フィールドからセメタリーに破壊または送られる時、カードを一枚ドローする! そして、魔法効果で破壊するのは玉藻前!」


「うっそやろ~っ!」



 玉藻前は自身の足元から伸びる複数の白い手により闇へと引きずりこまれた。



『おのれぇぇぇっ!』



 玉藻前はまだ登場したばかりなのにーっと叫びながらセメタリーへと送られた。


 咲夜はモンスターAIがカードファイト中でも機能していることを思い出す。玉藻前の反応を見て、こんなにもモンスターによって違うのだなと感じた。


(……引けた、よかった)


 引きたかったカード。モンスター破壊を可能とする魔法カード。デッキに入れるか最後まで悩んだカードであったが入れていてよかった。咲夜はほっと胸を撫で下ろす。


 けれど、安心するのはまだ早い。咲夜は気を引き締め、次の行動に移る。



「このまま攻撃します! まずはコピット05で一回、コピット07で二回!」

「二回、ブロックや!」



 コピット05の攻撃は野狐が、コピット07の攻撃は黒狐が庇った。二度目のコピット07の攻撃がランパートを襲う。



【常夜の国―妖精コピット05 攻撃500

 妖狐―野狐 HP1250からHP1000へ】


【常夜の国―妖精コピット07 攻撃1800

 妖狐―黒狐 HP(1000) 残り(100)】


【常夜の国―妖精コピット07 攻撃1800

 竜真―ランパート(5000)から(3200)へ】


 コピット07はくるくるとステッキを回してドヤ顔を決めている。



「く~っ、いったいのーう」

「ダスク・モナークでランパートに攻撃!」



 ダスク・モナークの大鎌がランパートに当たる、その瞬間に竜真は手札からディフェンスマジックを発動させた。ダスク・モナークの攻撃は弾き返されてしまう。



「いやぁ、危ない危ない」

「私は、ターン終了です……」



 ダスク・モナークの攻撃は通らなかったものの、ランパートにダメージを与えられた。あとは相手の動き次第、咲夜は竜真の動きを待つ。



「うーん、これりゃあ、参ったね」



 頭を掻きながらどうしたものかと唸っている様子からみてあまり手札は良くないようだ。独り言を呟いている。


 竜馬はモンスターを一体、召喚した。白い狐の姿をした白狐は優雅に立つ。竜真はそのまま攻撃の指示を出した。



「ガードを宣言! 効果で全ての攻撃はダスク・モナークへ!」


 竜真のモンスターの攻撃は全てダスク・モナークへと向かう。狐の攻撃をダスク・モナークは大鎌で跳ね返していた。


【常夜の国―ダスク。モナーク HP6500 ダメージ合計(2450)


 残りHP4050】



「やっぱ、そうなるよなぁ」

「当然です!」



 ガードまたはブロックしたモンスターへの攻撃は、ブロックした時と同様にダメージが半減する。ダスク・モナークのHPの残り具合に竜真は困ったような表情をみせた。



「せっかく、ランパートへの攻撃をブロックできないモンスター出しても、ダスク・モナークには通じへんもんなぁ」



 あかんなぁ。竜真はターンを終了した。


(いけるっ!)


 相手の行動に咲夜はこれはいけると力を入れた。此処でミスを犯しては元も子もない。焦る心を静めながら咲夜は魔法カードを発動させた。



「私は魔法カード【常夜の誘い手】を発動! 手札を一枚捨て、モンスターを一体、行動不能に! さらに場に常夜の国―ダスク・モナークが存在する時、さらにもう一体を行動不能にする!」



 一体の野狐の足元に複数の白い手が伸びると身体を掴み、動きを封じた。さらにダスク・モナークが指を鳴らすと、白狐も身体を固定されてしまう。



「なんや、そのカードっ」

「神威くんとトレードしましたっ!」



 優勝者に与えられた商品の一つ、ダスク・モナークに関する補助カード。咲夜は自身のレアカードと交換して手に入れていた。



「ゾンビ・ガールを召喚! その効果でゾンビ・ボーイを手札に入れ、攻撃を開始! まずはコピット07で黒狐!」



 コピット07のフルスイングにより吹き飛ばされた黒狐は床に倒れ消えた。コピット07はそれを見届けると、ランパート目掛け、さらに大きく振りかぶる。



「ディフェンスマジック発動!」

「カウンター発動! 【魔封じ】 これにより、ディフェンスマジックの効果を無効にします!」



 咲夜のカウンターで竜真のディフェンスマジックは弾かれてしまった。コピット07の攻撃はそのままランパートへと向かう。


【竜真 ランパート 耐久値(1400)】



「ダスク・モナークの攻撃!」

「プロテクトを使用!」



 ダスク・モナークの攻撃は竜真のプロテクトにより防がれる。その間を縫ってゾンビ・ガールはバールのようなものでランパートを殴った。


【竜真 ランパート 耐久値(0)】



「コピット05でとどめですっ!」



 コピット05はフィールドを駆け抜け、飛ぶ。コピット05のステッキを受け、ランパートは完全に崩壊し、竜真の負けが決まった。



「…………あー、だめやったわぁー」



 大息をつくと竜真は頭を軽く叩く。こうなったのは仕方ないことだ、そう言うように。頭をがしがし掻きながらいやぁと言葉を紡ぐ。



「モンスターカードも耐久できる魔法カードもこんくてなぁ。手札事故ってもうてた」



 玉藻前でモンスターはなんとかなると思っていた矢先に破壊されてしもうたし。竜真はあの時から不利になっていたと話す。


 初期手札事故は痛い、それの気持ちは咲夜も理解できた。あの時のどうしたらいいんだといった気持ちはなんとも言いがたいものだ。


 やっぱ魔法は程々にしとかなあかんねと竜真は笑っていた。



「あ、ありがとうございましたっ。その、ペース合わせていただいたりと……」

「大丈夫やでー、確認は大事やしな。それに面白かったしの」



 にひひと歯を見せると竜真は楽しそうにオルターを構える。



「これでランクもちょっとは上がったんとちゃうかぁ?」



 竜真の言葉にあっとオルターを確認する。オルターは対戦を記録する、今回の対戦でだいぶランクが上がったようだ。咲夜は驚いたよう口を開く。



「キングになってた……」

「よかったじゃないですの!」



 ビギナーまであと少し。咲夜は見えてきた可能性に少しだけ希望を持った。無理かと思われていたが、これならばと。


 よかったのうと笑む竜真にマリアは「そうですわ、先輩」とオルターに表示された時間を指差した。



「そろそろ部活動生も下校時刻ですわ、先輩」

「ありゃー、もうそんな時間かぁ」



 竜真はあちゃーっと頭を掻く。よく頭を掻く人だなと思いつつ咲夜はオルターを操作した。



『わーらーわーのー絵は! どうーなるんじゃっ!』



 ぷんぷんと怒った様子の玉藻前がオルターから姿を現す。キッと咲夜を睨み、その後ろに立つダスク・モナークを指差した。



『今度は負けぬからな、常夜の長よ!』

『また破壊されぬといいな、女狐よ』



 きーっと玉藻前は竜真に抱きつくようにしながら牙をむく。どうどうと玉藻を落ち着かせながら竜真は苦笑した。



「あー、咲夜ちゃんとマリアちゃん」



 竜真は二人を呼ぶと申し訳なさげに頬を掻いていた。どうしたのだろうかと顔を見合わせれば、竜真はすまんと手を合わせる。



「すまんが、片付けを手伝ってくれんか?」



 此処、通常授業でも使うんや。竜真の言葉に二人は周囲を見渡した。足場の踏み場も無いような室内。この空間をたった一人で作り上げたのかと驚き言葉が出ない。


 そして、此処を片付けるのにどれだけの時間を要するのか、それを考えるだけで頭が痛くなった。



「お礼に夕飯おごるけぇ、頼む!」

「夜までかかる前提じゃないですか!」



 先生には説明しとくからと竜真にお願いされ、二人ははぁと溜息をつく。グランが言っていたのはこういうことだったのかと。確かに面倒ではあるなと二人は思った。



「咲夜さん、先輩とお食事終わったら家まで車で送りますわ……」



 流石に一人歩きは危ないとマリアは自身の向かえの車で送ることを提案した。いつもなら断るところだが、時間によっては父が心配してしまう。咲夜はその申し出をありがたく受けた。


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