第21話:紹介
咲夜のランク上げが始まってから一週間。何とかクイーンまで上げることができた。それでもまだビギナーまでは遠く。
「うぅ、胃が……」
咲夜は同級生だけでなく上級生にも対戦をお願いしていたこともあり、精神面で胃がやられていた。
もともと、自身から話しかけるのが苦手な部類である咲夜にはかなり堪える。机に突っ伏しながら腹部を押さえていた。
「貴女、頑張ればできるじゃないですの」
咲夜は対戦を重ねるうちにどんどん成長していた。苦手だった効果処理も悩まずに行えるようになり、自身から話しかけることもできるようになっていた。
やればできるのだ、咲夜は。よくできていますわよとマリアが言えば、咲夜は頑張りましたからと腹を擦っている。
「デッキも組みなおしましたのねぇ」
「みなさん、強くって」
咲夜は今のデッキでは駄目だと何度も組みなおしていた。
対戦してみた思ったのだ。皆、戦略が違っており何をしてくるかも分からない。思いもよらないカードを使われ負けたこともあった。
デッキというのは進化するものだ。対戦することでそれが学べ、改良することでよりよいデッキへと進化を遂げる。それを咲夜は実感した。
どうしたらもっとダスク・モナークを活躍できるのか、勝率を上げるにはどうしたらいいのか。考えれば考えるほどデッキは変わっていった。
「それでもコピットは外さないと……」
「それは絶対に外しません」
「まぁ、死霊族サポートテーマですし入れるのは問題ないでしょうけど、絶対なのですわね……」
そこは譲らない。咲夜はデッキを再度、確認し調整を行う。今日の戦いで学んだことを生かすために必要だと思ったカードを入れ変えたりしていた。
対戦後の復習として毎回、デッキの調整は欠かさないようになっている。
「最近、頑張っていると思ったらそういうことだったのかい?」
「でたわね、グラン様」
咲夜の背後からグランはオルターを覗いていた。どうやらグランは二人の話を聞いていたようだ。咲夜はいつの間にといったふうにオルターを抱き後ろを振り返る。神出鬼没のこの瞬間は未だに慣れない。
「そんな酷いことをしなくてもいいというのに!」
話の殆どを聞いていたようで、神威のやつめと少し怒っている様子である。そんな彼を流しつつ、咲夜は再びデッキの調整に戻る。
すると、そうだとグランが指を鳴らした。
「僕とカードファイトしてみるかい?」
「何を言ってるんですかっ!」
咲夜はグランの言葉に突っ込む。プロトーカーとの対戦がこんな簡単にできてしまうのはいかがなものかと。
そんな咲夜に大丈夫さとグランは笑った。
「僕は大会用以外にも日常用のデッキを用意しているからね」
勝てなくとも高ランクのトーカーと戦ったの時に獲得できるポイントは多く貰える。ランクを上げるにはぴったりじゃないかとグランは提案する。
目立つのが嫌ならばホログラム機能を切って対戦すればいい。それでも成績には加算されるのだから。
これなら周囲に目立たなくてすむだろう? グランの申し出に咲夜は考える。悪くは無い案ではあるのだが、どうにも腑に落ちない。
「あぁ、そうだ。僕はどんな相手であっても勝負を挑まれたらカードファイトするよ?」
君だけが特別なわけではないとグランは咲夜の様子を見て言い足した。
「グラン様の言うことは本当ですのよ」
マリアもグランをフォローするように言う。
グランは学園だけでなく路上であっても、勝負を挑まれればどんな相手でも受けて立つ。その勝負に勝とうが負けようが相手を称える。そのための日常デッキなのだ。
「学園内の男子も下級生であろうと上級生であろうと、グラン様を見つけてはカードファイトを申し込んでいますわ」
受けないのは神威様ぐらいですの。マリアの話を聞き咲夜は少し考える。
プロトーカーとの対戦は例え負けたとしてもポイントは通常より多く貰える。それにプロトーカーと日常用のデッキとはいえ戦えることはそうない。
咲夜はグランの申し出を有難く受けることにした。
「勝つ気でくるといい」
「それは無理がありますよ……。でも、頑張ります!」
無理だとは思うけれど、それでも相手に失礼でないよう全力を出す。咲夜は調整した新しいデッキを登録すると、準備万端といったグランのオルターにアクセスした。
*
「まぁ、無理ですわよねぇ」
一瞬でとは言わないけれど、咲夜は惨敗してしまった。それでも噛み痕ぐらいは残せたかもしれない。むーっと自身のデッキを眺める咲夜にマリアは声をかけた。
「善戦したほうですのよ」
「僕もそう思うよ」
マリアに同意するようにグランは頷く。咲夜はオルターを操作しながらでもと答える。
「もう少しどうにかなるかなぁって思って」
「改良の余地はまだあるだろうね」
デッキの組み方自体は悪くない。グランはもっと攻撃面も考えてみてはどうかとアドバイスをした。
咲夜のデッキは防御面を重視している。そのせいか攻撃面が疎かになり、火力が足りず押し負けることが多々あった。
長期戦には向いているかもしれないが相手が短期戦向きなデッキだった場合、場を固める前に負けてしまう。
「やっぱり攻撃面の補助ですよねぇ……」
「そうですわねぇ」
ただ、攻撃力の優れたモンスターを入れるだけではバランスが悪くなってしまう。魔法カードなどで補助すればモンスターをもっと活躍させることができる。
ただの力押しだけでは駄目であり、バランスが難しい。咲夜はうーんと唸りながらカード一覧とにらめっこしていた。
「デッキには答えがないからね。ゆっくり自分に合ったデッキを考えるといいよ」
「ありがとうございます、グラン先輩」
勉強になりましたと咲夜が頭を下げる。グランは「君の役に立てるのなら本望さ」と嬉しそうに返事をしていた。
「あぁ、そうだ」
グランは携帯電話を取り出すと誰かと連絡を取り始めた。どうかしたのだろうかと咲夜とマリアはその様子を眺める。
数分、会話をし電話を切ったグランは二人のほうを向くと提案した。
「僕が一人、対戦相手を紹介するよ」
グランが紹介したのは
彼はプロまであと少しといったところまで来ているが、本人はプロトーカーよりも解説者になりたいとあまり興味がない。
それでもランクはほどよく高く、勝敗関係無しにポイントは多く貰えるだろう。
「りゅーまも挑まれれば受けて立つトーカーだ。今、美術室のほうにいるらしい」
時間が空いたら寄ってみてくれとグランは笑う。話が早いよと咲夜は慌ててオルターを操作していた。まだデッキの調整ができていないのだ。
「ははは、ゆっくりで大丈夫さ。彼は遅くまで学園に残っているからね」
一度、絵を描き始めると永遠と筆を動かし、誰かが止めに入らないとやめない。だから、君たちが止めに行ってくれとグランは頼む。
「あれを止めに行くのは大変なんでね」
僕はこの後、用事があるんだ。グランは二人に「りゅーまをよろしく」と任せ、教室を出て行った。
「何気に面倒ごとを任された気が……」
「任されましたわね……」
二人は顔を見合わせ苦笑すると放課後、竜真のいる美術室へと向かうことにした。
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