第3話:練習バトル
昼休み、咲夜は屋上へと続く階段を昇っていた。オルターを起動させながらデッキのチェックをしている。昨日の帰り、神威から課題を出されていたのだ。
『ダスク・モナークのデッキをお前なりに組んでみろ』
デッキについて散々の言われようだったのにも関わらずこの課題を出してきた。まずはルールからじゃとも思わなくもないが、あやふやながらにも帰宅してから必死に考えて組んではみた。
「多分、だい……じょうぶ」
ルールも確認しながら組んだ、間違いは無いはずだとデッキを何度も確認する。そんな咲夜を後ろからホログラムで実体化したダスク・モナークが覗いていた。
「うへぁっ⁈」
『貴様は飽きもせず、おかしな声をよく出す』
宙に浮くダスク・モナークは足を組むと手にしている大鎌をふっと消した。
パートナー登録しているモンスターAIは常に行動することができる。それはオルターの中でも、ホログラムで実体化した状態でも。もちろん、トーカーであるプレイヤーの指示によってどちらでも選ぶことは可能だ。
モンスターAIに設定されている性格によっては勝手に出てくることもあれば、オルターからあまり出てこないというのもいる。
『せいぜい、頑張るといい』
ふっとダスク・モナークは消える。彼の場合、勝手に出てきてはすぐにいなくなるタイプであった。
「お、着いたか」
「あ、神威くん」
屋上の扉の前に彼はいた。そして、何の躊躇いも無く制服のポケットから鍵を取り出しドアを開ける。立ち入り禁止のはずなのになと思いながら咲夜はついていく。
屋上から吹き抜ける風に靡くポニーテールに結われた長い紅髪など気にもとめず神威は手を出した。
「デッキみせてみろ」
「えっと……一応、頑張ってみたんですけど……」
オルターに表示されたデッキのカード一覧に目を通す神威。何度か額に手をあて渋い表情を見せていたがオルターを咲夜に返した。
「五十二点」
「うぇぇ……」
「昨日のよりはマシってぐらいだ」
昨日のは三十点もいかないと自身のオルターを起動させながら神威は言う。あれは酷かったが今のはだいぶいいと。
咲夜の見せたデッキは自分なりに考え組んでいることがよく分かる内容だった。それだけでもちゃんとやろうとしている意志は伝わってくる。
「半日で五十点まで上げれたことは褒める。が、まだまだおかしい」
「うぅ……」
褒められているようには聞こえない。咲夜はデッキを眺めながらこれでも頑張ったほうなのだけれどと眉を下げる。
項垂れている咲夜に「まだ始まってもねぇぞ」と喝を入れ、オルターを咲夜に向けた。
「ルールはもう一度、確認したんだな?」
「言われたので確認しました、何度も」
「なら、おさらいすんぞ」
オルターの練習モードを起動させろ。神威の指示に咲夜はオルターを操作する。オルターには初心者用に練習できる機能がついている。
起動させると対戦と同じ画面が表示される。デッキの部分に触れるとどれをセットするか選べるようになっていた。
神威の指示に従いながらデッキをセットする。すると、練習相手として神威のオルターと通信が接続された。どうやら、彼は相手をしながら教えてくれるようだ。
「まずは練習だ。口で教えるより覚えやすいだろ。で、モンスターを置く場所がモンスターフィールド。その後方にある城壁がプレイヤーであるトーカーを守る城壁、【ランパート】だ。その右側にデッキ、反対側にモンスターや魔法の墓であるセメタリー。ここまでは解るな?」
神威が指を差しながら一つ一つを説明し、それに咲夜は頷く。画面の見方を確認すると、次のステップとして、ランパートをタッチした。
ランパートに表示される数字と設定されているカード。それを指差しながら神威は説明する。
「ランパートには耐久値が設定されている。通常ルールだと5000ポイントだ。ランパートには防壁カードという防御カードを一枚初期設置できる。これは必ず一枚セットしなくてはならない」
ランパートには耐久値が設定されており、その数値が0になった時に相手のモンスターから攻撃されると負けとなる。
さらに、ランパートには防御能力として、【防壁カード】が一枚初期設置でき、必ず一枚対戦前にセットしなくてはならない。
防壁カードには防御指令・攻撃指令・特殊指令と三種類存在し、セットするとそのカードの効果を自フィールド上で永続に受ける。
初期設置できる防壁カードは決まっており、それには初期防壁と記載されている。初期防壁と記されている防壁カード以外は初期設置することはできない。
ランパートには最大三枚の防壁カードが設置でき、破壊または【プロテクト】に使用すると防壁カードはセメタリーに送られる。
プロテクトとは、相手のランパートまたはトーカーへの攻撃を防壁カードをセメタリーに送ることで防ぐ行為のことをである。
「初期設置する防壁カード以外は防壁カードの設置条件を満たすか、モンスター・魔法効果でしか、追加でセットできない。で、そのランパートを守るのが【モンスター】だ」
そう言って神威はモンスターをフィールドに出した。小さい白い竜のモンスターが現れる。
モンスターには攻撃力とHPが設定されている。HPの数値までは破壊されず、フィールドに残っていられ、ランパートを守ることができる。
「お前も試しに出してみろ」
「えっと、こうですかね……」
咲夜は言われるがままにモンスターを出した。ゾンビのようなモンスターが自身のモンスターフィールドに現れる。
「モンスターの攻撃を受けると、その攻撃数値分HPから引かれる。0になったらそのモンスターは破壊され、セメタリーに送られる」
そう言うとともにモンスターで攻撃宣言をする。すると、白い竜はゾンビへと向かっていった。咲夜はあわあわと慌てている。そんな彼女に神威はこういう時はと説明をする。
「攻撃された時、【ガード】宣言することでそのダメージを半分に抑えることができる」
ガードはカードをタップすることで相手モンスターの攻撃を半分に凌ぐ防御行動だ。各モンスターは一回だけ行うことができる。
咲夜は教えられたようにガードを宣言した。すると、ゾンビのようなものは自身を守るような姿勢をし、白い竜の攻撃を受け止める。
「ガードは、ランパートやトーカーへの攻撃を防ぐこともできる。その場合は【ブロック】と宣言する」
相手の攻撃をブロック宣言することで、ランパートやトーカーへの攻撃を防ぐ。その場合、攻撃力の半分のダメージをブロックしたモンスターは受ける。
ブロックや攻撃はガードと同じく各モンスター一度のみ。ただし、既に攻撃したモンスターでもガード、ブロックは行える。
また、モンスターや魔法効果で攻撃やガード・ブロック回数が増える場合もあるが基本的には一度のみである。
ガード・ブロックを宣言した後、再びそのモンスターに攻撃する場合にはガードを維持している状態とし、ダメージは半減される。
「ブロック宣言をしない限りはランパートやトーカーへの攻撃は守れねぇから気をつけろ。モンスター効果で貫通やらもあるが、そこはよく相手モンスターの効果を確認しろ」
神威は咲夜のオルターを指差し、なるべくゆっくりとした口調に気をつけながら説明する。 咲夜はふむふむと画面を見ながら頷いていた。
「で、モンスターは自分フィールドに最大四体まで召喚できる。一度に召喚できるのは、通常モンスター二体または進化・魔法モンスター一体だ。ただ、魔法やモンスターの効果で進化・魔法モンスターを召喚する場合、通常召喚と明記されていなければさらに通常召喚を行ってもかまわない」
神威は白い竜の効果を使用し、進化モンスターを召喚する。そして、さらにモンスターを一体、召喚してみせた。一連の流れに咲夜は驚き、声を上げる。
「え、えっと?」
意味が分かっていない咲夜に神威はさらに例を上げる。
例えば、魔法の効果で進化・魔法モンスターをフィールドに召喚するとする。その魔法に通常召喚と記載されている場合は先ほど説明した通りそのターン、モンスターは召喚できない。けれど、それが召喚するのみの記載であれば、さらに通常モンスターまたは進化・魔法モンスターを召喚することができる。
「な、なるほど……通常モンスターを召喚したターンは進化・魔法モンスターを召喚できないけど、魔法やモンスター効果で召喚する場合、通常召喚と明記されていなければその限りではないっと……」
咲夜は忘れぬようにとオルターのメモ機能を起動させた。説明が多く、聞くだけではとてもじゃないが一度では覚え切れない。
練習モードの画面に表示されるメモをスクロールさせながら頭に叩き込んでいく。咲夜の様子を見ながら神威はゆっくりと教える。
「通常の文字があるかないかで見分ければいい。で、通常モンスターを二体同時に召喚した時は?」
神威の不意打ちの問いに咲夜は一瞬、言葉に詰まる。 えっとと、何度も確認したルールを頭から引っ張りだし、答えた。
「えっと、どちらか片方しか、そのターン攻撃ができない、です!」
モンスターは二体同時に召喚した場合、そのターンはどちらか片方しか攻撃することができない。一部、例外もあるが基本はできないと決められている。
咲夜の回答に神威は正解だと言ってオルターを操作した。
「今、メジャーなモンスターの種類は通常モンスター・進化モンスター・魔法モンスターだ。通常はそのまま召喚できるが、進化モンスターと魔法モンスターには対価が必要になる」
進化モンスターは召喚するモンスターのカードに記載されているモンスターカードを、その枚数分セメタリーに送ることで召喚できる。
魔法モンスターは召喚するモンスターのカードに記載されている魔法カードを、その枚数分セメタリーに送ることで召喚できる。
その時に使用された魔法カードはモンスターカードに「使用してもよい」と記載されていない限りはそのまま使用することはできない。
「練習だからな。お前もバトルを仕掛けてみろ」
「攻撃力低いんですけど……」
「攻撃力が低かろうと、相手のモンスターのHPを少しでも減らすんだよ」
相手のモンスターのHPが少なくなれば倒しやすくなる。攻撃できるモンスターがいるのなら、積極的に攻撃を仕掛けるのも作戦の一つだ。もちろん、能力を確認するのを怠ってはいけない。
咲夜は相手モンスターの効果を確認する。進化モンスターは攻撃耐性があり、ダメージを半減する能力が備わっていた。
「えっと、じゃあこっちのモンスターに攻撃を……。あ、先にモンスター召喚か!」
「そうだな。先にモンスター召喚または魔法使用だな。次がバトルだ」
「そこ教えてくださいよ……」
「自分で気づくのも大事だぞ」
教えられてばかりではなく、自分で気づくのも大事なことだ。神威の言葉に納得した咲夜は手札のモンスターを一体、召喚した。
ふわりと白い花のようなモンスターが召喚される。
「えっと、召喚時効果は今、使うんですよね?」
「そうだ」
「じゃあ、このモンスターの効果でもう一体、死霊族モンスターを召喚します」
デッキからさらにモンスターを召喚する。モンスターを召喚し終え、バトルへと入った。攻撃耐性のある進化モンスターは避け、通常召喚されたモンスターのほうへ攻撃する。
二体のモンスターからの攻撃に耐えられず、そのモンスターは消えてしまった。
「戦闘はこんな感じだ。分かったか?」
「はい、なんとなく」
「まぁ、練習していけば慣れてくるだろ」
今はまだ練習バトルだ。本番と違い、テンポはゆっくりで教えられながらやっている。これがちゃんとしたバトルならばと考えると咲夜は少しばかり心配になった。
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