第1章「クズの森」
「なんて楽な生活なんだ!!!!」
利央は思わず歓喜の声をあげる。
ケル吉とスネ夫の闘いから数日、利央はアウトドアニート生活をエンジョイしている。
お腹減った!と一声叫ぶと、ケル吉とスネ夫は競い合いように果物や動物を狩って来てくれるのだ。
動物は流石に生臭いというか…獣臭くて微妙だったけど、この森の果物はまじでうまい!
高級なイチゴが更に美味くなったような味の果物やリンゴが更にシャキシャキの甘々になったような果物は絶品だった。
さらに喉乾いた!と一声叫ぶと、ケル吉やスネ夫が綺麗な川まで運んでくれる。
こんな快適な生活を送っていては駄目人間になってしまう…
…もうなってるか。
今の生活はかなり快適だ。
かなり快適だが…強いて言うならば寝床をどうにかしたいというのはある。
もふもふのケル吉を枕にして寝ているが、やっぱりベッドや畳での睡眠はまた違った良さがある。
それと娯楽も欲しい。とにかく森での生活は暇だ。延々と川の流れを眺めたり、小石を投げたりして遊んでいたがさすがに飽きた…とにかく誰かと会話がしたい。あの変なコスプレ少女と話して以来、もう10日は人との会話が無い…いくらクズでも寂しいと精神的に堪えるものがある。
ケル吉とスネ夫は俺の言うことなら大抵の事は理解するが、彼らは流石に会話はできないようだし…。
とりあえず今の目標は快適な住まいと話し相手の確保だな。
ケル吉とスネ夫が居れば身の危険はほとんどないだろう。それに例の黒いモヤモヤを使えば危なそうな奴でもなんとかなると思うし、より快適な生活を求めて移動していくか。
思い立った時のクズの行動は早い。自分の為の行動には抜群の行動力を発揮するのがクズの特徴の一つである。
「よし!いくぞケル吉にスネ夫!!より快適な生活を求めてな!!!」
「バウッ!」
「シャア!」
1人と2匹は森を更に奥へと進んで行く。
俺の名前はキース。金等級の冒険者で、同じく金等級冒険者のシャーリーとドンファンと「銀翼の鷲」というパーティーを組んでいる。
この辺りでは結構名前が売れているパーティーで、報酬の高い仕事や危険度が高い仕事は大体俺たちの元に回ってくる。
今日もいつものように冒険者組合から仕事を依頼されたのだが…
「ケルベアー?!?!なんでそんな危険な野郎を討伐しなきゃならないんだ?!」
ドンファンは苛立ちを含んだ口調で受付嬢へと迫る。
「えっ、えーと…なんでも"デスデモーナ大森林"からなんらかの理由で出てきてしまったようで、森林と接するウタヤ村の方々からの依頼のようです」
「そんなのは冒険者じゃなくて"騎士団"の仕事だろうが!!」
ドンファンは声を荒げる。
デスデモーナ大森林…金等級より等級の低い冒険者は入ることすら禁止されている、凶悪であり凶暴な魔獣が跳梁跋扈する恐ろしい森だ。
その中でもケルベアーは生態系の頂点に君臨する魔獣の一角であり、そんな奴を討伐するなんて最近金等級になったばかりの俺らには荷が重いというか…命を落とす可能性が高い。
先程ドンファンが言っていたように、デスデモーナ大森林から人里へ魔獣の類が被害を及ぼさないように騎士団というものは辺境の村や町、とくに大森林と接する村々に配置されている。なのでドンファンが言うように本来なら騎士団の仕事のはずだが…。
「本来であればウタヤ村にはナオス騎士団が駐屯しているはずなのですが…」
そこでキースはあることを思い出す。
「"帝国"…か?」
「…はい、どうやら騎士団は帝国と戦争になった場合に備えて国境付近に移動しているみたいなんです」
「だから村人を守れないってか、なんの為の騎士団なんだか」
「…」
ドンファンは呆れた様子で呟く。
そしてこれまで沈黙を守っていたシャーリーは静かに口を開いた。
「でもこれはチャンスよ…」
「なんだってシャーリー??」
ドンファンは驚いた様子でシャーリーを見る。
「考えても見て、ケルベアーほどの魔獣を討伐できたら金等級から白銀等級へと昇格できるわ!!」
「だけどシャーリー…死ぬかもしれないぞ」
「大丈夫よ…いざとなったら"あれ"を使うから!」
「でもあれは…」
「私たちは金等級になったばっかり、そして今白銀等級に昇格すれば異例の早さでの白銀等級ってことで間違いなく王国中の話題を集めることができるわ!」
「で、でもよぉシャーリー…」
「ドンファン!なにを躊躇っているの?でも…キース、どうするかはあなたの判断に任せるわ」
キースはしばらくの間、悩みに悩む。
シャーリーの"あれ"が世間に露呈してはまずいが…でもケルベアーは大森林の中にいるはず、目撃するような奴はいないか。
「ウタヤ村を救うとするか」
「そうこなくっちゃ!」
「やるんだな!キース!!」
こうして「銀翼の鷲」はデスデモーナ大森林へと向かった。
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