第2章「クーズー城」


ゴブ一郎に連れられ、利央達はデスデモーナ大森林をかなり奥へと進んできた。




これまで一度も来たことがない深い森の中、心なしか空気も冷たくて薄暗い。さらに霧だろうか、モヤモヤとしていて前が見えにくい。




道中でドンファンとシャーリーが目覚めてごちゃごちゃとうるさかったので、スネ夫の背中に乗せると静かにはなったが顔が引きつっていた。









「魔王様、着きました」




先頭を進んでいたゴブ一郎の足が止まる。





目の前には…開けた場所だというのはわかるが、霧が濃くて薄暗いのでよく見えない。





「拠点にするにはもってこいの場所だと思います」





そう言いながらゴブ一郎は手に魔法を生み出し、目の前の霧に向けて放つ。



するとバッシャーンと水が破裂したような音がして、次第に霧が晴れていった。





そして目の前に現れたのは…











巨大な城だ。木々が生い茂っている森の中に突如として西洋風の巨大な城が姿を現した。



城は湖の上に建っているのか、水に浮いているように見える。




原始的な深い森と水を隔ててすぐ隣に巨大な人工物がある様はとても異質だ。




だが…




めちゃめちゃかっこいいなこれ。




「お気に召されましたか?魔王様?」



「うん…めっちゃ気に入ったわこれ!でもゴブ一郎、なんでこんなところ知ってんの?」



「古くからこの森に住む者の間ではここは魔王の居城として知られていました…我らゴブリンにも代々受け継がれて来たのです」


「前にも言ったけど、俺はまだ魔王じゃないけどね」


「何を仰いますか!あの黒い魔法…我々を生まれ変わらせてくれたあの魔法こそ、魔王様が魔王であられる理由ではないですか!!」


「お、おう…そ、そうだな!」


「伝承によると千年ほど前の魔王が勇者に絶たれて以来、魔王は現れて無いようですので…魔王様は千年振りの魔王様なんですぞ!!」


「あ、ありがとう?」


「いえいえ、滅相も無いです。それであの城は千年前に魔王が住んでいた城ということになりますね」


「え?!…まじ?そんな古そうには見えないけど」


「なんでも魔法によって維持されてるとかなんとからしいです」



うーん…今までボロアパートに住んでいたけど流石に築50年くらいだったもんな。築千年以上はやばいって…その、ほこりとか?




「よし!ゴブ一郎、何人かゴブリンを連れて城の中の様子を見て来てくれ!敵対的な者がいたらできれば殺さずに捕まえて欲しい」


「承知いたしました!!…捕らえてこちらの戦力とするのですね、さすがは魔王様、恐ろしいお方だ」




ゴブ一郎はブツブツと何かを言いながら10人くらいのゴブリンを連れて、城の中へと入っていった。




さてと…




この西洋風の巨大で禍々しい城がニューホームか。



城って大体なんとか城って名前がついてるけど…



無難に魔王城とかにしとく?



いや、それだとつまらないな。




クズが成り上がる様を世の中に見せつけるって意味でもクズを全面的に押し出した名前が良いな。







よし、この城は今日をもって"クーズー城"とする。




異論は認めない。




だって俺クズだもん。

































「え?!ケルベアーにやられて傷だらけの冒険者が森の入り口にいたですって?!?!」



受付嬢は驚くほど大声で叫んだ。



そのせいで冒険者組合の中に居たほとんどの人に聞こえただろう。




冒険者のような者たちが


「ひぇー、銀翼の鷲か?」


「金等級でもケルベアーは厳しかったか」





などと言っているのが聞こえる。



「しっ、失礼しました!…それで、その冒険者の方はどちらへ?」


「何でも仲間とはぐれたので探すと言っていましたよ」


私、リア・タナルカ・アーネルはありのまま真実を伝える。


「シャーリーとドンファンとか言ってたような…」


「ということは、キースさん!無事だったのね…。」


「ええ、私が見たときは無事でした。しかし再びケルベアーに挑むと言っていたので、今どうなっているかは分かりませんが」


「そんな…キースさん、1人でケルベアーに挑むなんて…なんて素敵な方なの!!」


「うわっ…」


「え?!」


「いや、なんでもないです」


なんなのこの受付嬢は、よく人前でそんな恥ずかしい事が言えるわね。



まあ、でも、恋ができるなんて羨ましい…。




逆に言えば自分は武勲を挙げなければ自由な恋など夢のまた夢だ。




だからこそ少しだけムッとしてしまう。




「なんでもケルベアーと戦っている最中にゴブリンに襲われたらしいですよ…それで仲間が連れ去られたとか」



「まあ!…やっぱりキースさん1人には荷が重過ぎるわ、ケルベアーに加えて仲間の救助、ゴブリンの討伐もだなんて」



「確かに、単騎でケルベアーに勝てる者などあまり聞きませんね」



「ええ、だからこそ救助のクエストを募集します!…報酬は私が持ちますので」


「そ、そう。助かると良いわね」


「はい!騎士団の方、情報ありがとうございました!!」





リアは冒険者組合を出て、帰路につく。そして先程の受付嬢について考えていた。




恋ってすごいわね、お金まで出すなんて…私にもいつかそんな相手ができるといいな。




まあ受付嬢には悪いけど、夢のためにあの男の情報は言わないけどね…。救助出来るような者がいればいいけどね。





夢見る乙女は心なしか邪悪な笑みを浮かべているようにも見えた。

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