第2章「魔王の一歩」
目の前にはかなりの数…50はくだらない数のゴブリンが畏敬の念を込めたポーズだろうか、頭を下げ片膝を立てた姿勢をとっている。
全員が初めて見たときの緑っぽい肌の色から黒へと変わっていて、その中でも一際目立つ漆黒の肌を持ったゴブリンが先頭に立ち、キラキラした目で俺を見ている。
そいつは俺が適当…いや、気軽に名付けたゴブリン、"ゴブ一郎"だ。
そしてゴブ一郎の前に転がっている人間が2人…どちらも見たことがある。
ゴリゴリのパワー系レスラーのような男ドンファンと、ハリウッド女優のように綺麗な外人さんみたいな女シャーリーの2人だった。
いや、俺は痛い目に遭わせてこいって言って送り出した訳であって…連れて来いとは言ってないんだけど…。
しかし目の前のゴブ一郎のキラキラした純粋な目を見てしまうとどうしようもできない。
褒めて?ねえ、褒めて?みたいな目で見てくるのだ、それは違うぞとはなかなか言えない。
そもそも目の前に広がるゴブリン軍団は、あの3人組を痛い目に遭わせたいといった目的で仲間にしてみた。
ゴブリン達が策もなく突撃を繰り返してキース達にやられていたので、こいつらに策を授けてみればもっと戦えるんじゃないかと思ったのと、例の黒いモヤモヤの実験を兼ねてこいつらに黒いモヤモヤを飛ばしてみたのだ。
そしたら案の定ケル吉やスネ夫の時のように、ゴブリン達は黒いモヤモヤに包まれて…なんかこう、俺と通じ合ったような気がして命令を聞くようになった。
しかし今回は今までと違って、なぜかゴブリン達の肌の色が黒く変わった…まあこっちの方がカッコいいから良いのではないかと軽く考えているが。
とにかくこいつらは俺の仲間になったはずなんだが…
「それで魔王様、この者達はどう致しますか?」
と俺の事を"魔王"と呼ぶ。
魔王ってあの魔王だよね?RPGとかのラスボスの?
…
でも悪い気はしない。
昔から正義の味方よりも悪の組織の方が好きだったし…捻じ曲がった少年時代を過ごしたからかもしれないが…。
ケル吉もスネ夫も、どう考えても善か悪かで言ったら悪の見た目してるもんな。
それに俺も正義のヒーローって顔はしてないしな…そもそもヒーローとか嫌いだし。
そんなこんなで、もう魔王でも良いんじゃないかって思う。
というか良いね!魔王!!世界征服とかしちゃう?そしたらエリートニート生活できるよね?
食って寝て可愛い子とイチャイチャしてまた食って寝る生活…魔王になればできるんじゃね?!
…
最近分かってきた黒いモヤモヤの力だが、これを使えば本当に…
「魔王様??」
「ああ、なんでもない!でこの2人だっけ?」
「いかが致しましょうか?」
「とりあえず目隠しとかして拘束しといて」
「了解しました。それと今後の予定なのですが…もうお決まりで?」
「いや、とりあえず拠点っていうか住む所探そうと思ってるんだけど…」
「それなら魔王様、最適の場所がございますよ」
ゴブ一郎は凶悪な笑みを浮かべた。
「不味い!!急がないと!!!」
銀翼の鷲のリーダー、キースはこれまでの人生で一番の焦燥感に駆られている。
シャーリーとドンファンの身が心配で仕方がない。もし2人を失うことがあれば、冒険者としてはお終いだ。
冒険者というのは評判が命。金等級冒険者がゴブリンなんていう下級の亜人にやられたとなれば街中の…いや、下手したら国中の笑い者だ。
ゴブリンなんて、単体では1番下のランクである銅等級冒険者にすら勝てないような最底辺の亜人だ。そんなのに手も足も出ずにやられ、パーティメンバーを連れ去られたとなれば…。
しかし言い訳ではないが、あの黒いゴブリンは魔法を使っていた…ゴブリンが魔法、それも見たことのない黒い魔法を使うなんて聞いたことが無い。
それに目に見えないような速さ、一撃で気絶させるような力…どれを取っても圧倒的だった。
そんな奴に再び挑むなんて正気じゃ無いと言われるかもしれないが、俺には…俺たちには切り札がある。
先程はシャーリーがヘマをしてしまい使えなかったが、シャーリーが使う失われし"禁術"…あれが決まれば勝機は充分にある。
俺たちが史上最速で金等級冒険者になれた理由でもある禁術、"死霊術"があれば…。
キースはゴブリン達の足跡を辿って、力の限り走り続ける。
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