第1章「思惑」

「うえっ…なんだこれは」




辺りに散乱するゴブリンの死体を見て、私…リア・タナルカ・アーネルは吐き気を催す。



グロい…グロすぎる。



目つきの悪い男と冒険者との接触を防ぐためにデスデモーナ大森林の入口へとやって来たのだが…なぜかゴブリンの死体が辺りに散乱している。



剣で切り捨てられているものや魔法の直撃を喰らい爆散しているものもいて、とてもグロテスクだ…私のような純粋無垢な乙女にとっては非常にショッキングな風景である。




だが私はこんなことでは挫けず、前へ進む。




見るも無残なゴブリン達だがケルベアーに噛み殺され、闇属性魔法の餌食になったのなら先程の惨状にも納得できる。




しばらく辺りを散策していると、なんとゴブリンに混じって倒れている人を見つけた。



まだ息はあるようだ。



「あの!!大丈夫ですか?!」



激しく体を揺らすと男は目を覚ました。



「…君は?」


「私はリア、ナオス騎士団の者です!ここで何があったのですか?」


「実は黒いゴ…ケルベアーとの戦いの最中にゴブリンの妨害を受けてしまって」


「やはりケルベアー…近くに男はいませんでしたか?こう、目付きの悪い男です」


「そっ、そのような男は…」


男は明らかに動揺しているようだ。


そこでリアは考えて来た"事情"を男に話す。



「その男なんですが…実は非常に危険な"魔獣使い"なんです!ケルベアーを従えるような男ですから」


「!!…そうだったのか。ああ、確かにその男なら見た。しかしケルベアーが人間に懐くなんてありえ…」


「だからです!だからこそ危険なんです!ですから騎士団としても動向を探らないと」









決まった。魔獣使いと言われれば納得せざるを得ないだろう。これであの男が闇属性魔法を使っているなんて思わないはずだ。





「しかし君…その格好は見習い騎士ではないのか?」


「そっ、そうですが…私は情報収集担当なんですよ」


「…そうか」


男は訝しげな視線を送ってくるが、堂々としていれば信じるだろう。



「そうだ!シャーリーとドンファン…俺以外に2人いたのだか、見てないか?」


「いえ…私が来た時にはあなたしかいませんでしたが」


「クソッ、連れ去られたか!俺はゴブ…ケルベアーを追う。君は冒険者組合にこの事を知らせてくれないか?危険な"魔獣使い"の男の事も」


「はい…ですがお一人では」


「とにかく頼んだぞ!」


男は剣を手にして走り去っていった。














よっしゃぁあ!なんとかなってしまった!!これで誰も男が闇属性魔法の使い手だとは気付かないだろう。




ケルベアーを従える魔獣使いも充分危険だが"勇者"が出てくるような事はさすがに無いはずだ。





これで時間はかなり稼げたはず…今のうちに私も強くならなくちゃ。




リアは充実した表情で森を後にした。

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