第1章「魔王への道」

やばそうな気配がしたのでいち早くケル吉達の元へ逃げていた利央。





昔から危機察知能力というか、危険から逃げる能力は数少ない長所の一つだ。






担任の先生がブチ切れる直前にトイレに逃げたり、給食で出た魚で全員が食中毒になる中自分だけその魚を食べなかったりとそういう場面は結構ある。




今回もそれだ、がさがさとテントの周囲が騒がしかったので隙を見て逃げていた。3人には悪いがとりあえずあ安全地帯から様子見だな。






戦闘は既に始まっている。数の暴力でとにかく突撃を繰り返すゴブリンとやらだが、キース達はゴブリンを圧倒する。



キースが剣で斬り伏せ、シャーリーは手から火の玉を出してゴブリンにぶつけている。


なんだあれは!!俺のやつの火バージョンか?!


ドンファンは巨大なハンマーを振り回し、ゴブリン達を薙ぎ払っていく。




俺の出番…というかケル吉とスネ夫の出番はなさそうだな。






キース達の奮戦に100はくだらない数で襲って来たゴブリンとやらも撤退し始めていた。









そろそろ出て行ってもいいな。


そう思って彼らの元へ合流しようとしたその時、利央は衝撃を受けた。





「ちっ!あの野郎どこ行った?!」


「逃げたんじゃないの?!」


「いや、まだ近くにいるはずだ!逃すなよ」




先程の彼らからは想像できないような口調の会話が聞こえて来たのだ。




















不快だ。







非常に腹立たしい。人によって態度を変える人間は昔からあまり好きではない。

なんだか裏切られたような…最低の気分だ。




「久々にこんな気持ちになったな…」



自分の様子を見てケル吉とスネ夫はびくりと震えたようだ。怖い顔でもしていたのだろうか。





とにかくあいつらに腹が立って仕方がない。さっきまで"様"なんて呼んでいたのに俺がいないとこでは"あの野郎"とか言っていたな。







とにかくあいつらには少しばかり痛い目にあってもらわないと気が済まない…なのでここは実験も兼ねてある事をしてみようと思う。ふふっ、楽しみだ。








利央は不敵な笑みを浮かべて、ゴブリン達が逃げて行った方へと歩いていく。


















「いないぞ!クソっ!!」


キースは苛立ちからゴブリンの死体を蹴り飛ばす。少し目を離した隙にリオとかいう男を見失ってしまった。失態だ…。



「どうするのよ!寝てる間にケルベアーとヴェノムボアを片付ける予定だったじゃない!!」



「戦闘で勝つのはきついんじゃねえか?」





「とにかくあいつを早いとこ見つけるぞ!話はそれからだ…ケルベアーとヴェノムボアもめちゃくちゃやばいが、それを従えるあいつ…一体何者なんだ」



ここまで話してみて特に怖さを感じるような場面は無かった。能天気に恋仲がどうこう言うような奴だ、警戒のし過ぎだったか?



いや…ケルベアーとヴェノムボアは絶対服従といった態度だった。やはり力で支配しているのだろう、だから油断は禁物だ。能ある鷹は爪を隠すと言うしな。力を隠しているのかもしれない。





「もしかしたら…闇属性の魔法だったりしてな!」


「ドンファン!!ふざけないで!お伽話じゃないんだから」


「す、すまん」



そうだ、シャーリーの言う通りそんなことはありえない。とにかく一刻も早くあいつを見つけな…



?!




キースは死角からの一撃をもろに受けてしまう。



「くっ!」





死角から飛び出してきたのは…





ゴブリンだ!先ほど逃げて行った奴の残党だろうか…いや、違う。目の前のゴブリンは歴戦の戦士の風格を備えている。一挙種一挙動に無駄がない。



「キース!!大丈夫?!」


「ああ、軽く切られただけだ…」




「完全に貰ったと思ったんだけどなあ…なかなかやるなあんた」



「なっ!!!」



目の前のゴブリンは非常に流暢に言葉を話している。


「ホブゴブリンか?!?!」


「いや…違うぞ!強いて言うなら"ブラックゴブリン"かな?」



「ふざけないで!!ファイアーボール!!!」


シャーリーから火の玉が飛ぶ。





サッカーボール大の大きさの火球をゴブリンは避けることなく、片手で搔き消した。



「なに?!?!」


「ばかな…」


「…」



シャーリーは目の前の光景に言葉を失う。





「さて…お前らは殺さないが痛い目にあわせるように言われてるんでね、適当に相手をさせてもらう」


「舐めやがってぇえ!!!」


「待て!ドンファン!!」



ドンファンは巨大なハンマーをゴブリン目掛けて振りかぶる。



「…遅いな」


「な?!?!」


ドンファンは腹部に強烈な一撃をもらい、そのまま倒れこむ。




「キース!!"あれ"を使うわ!!!」


「シャーリー!!待てっ!!」



シャーリーの周りに魔法陣が展開される。





…が



「馬鹿なの?!わざわざ今からなんかやりますよーって言うかね戦闘中に…それじゃあゴブリン以下だな」



「なんですって?」



シャーリーは怒りを露わにゴブリンを睨みつけるが、時既に遅し。



いつのまにか目の前に迫ったゴブリンの軽い一撃で気絶してしまう。




「さて…残るはお前だけだが」



「ま、待ってくれ!なんなんだお前は??誰の命令でこんなことをする?!」




「誰って?それは…」








ゴブリンの体が次第に黒いモヤモヤを帯びていく。



ゴブリンは手のひらに黒い球体を生み出す。そしてそれをキース目掛けて放つ。






「魔王様だよ!」





キースの意識はそこで途切れた。

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