第1章「騎士の憂い」


「銀翼の鷲の人たちケルベアーの討伐に行ったんですよね?大丈夫ですかね??」


「なんとも言えないなあ…まあ帰ってくることを祈るしかないんじゃない?」


「そんなぁ!私がキースさん狙ってるの知ってて言ってます?」


「ああ、そうだったわね、ごめんごめん…まあ彼らなら大丈夫よ!異例の早さでの金等級昇格パーティだものね」


「だと良いんですけど…」





騎士団の雑務で冒険者組合を訪れ、そこで何気なく聞いていた受付嬢同士の世間話、その中に聞き捨てならない言葉があったのをこの私、リア・タナルカ・アーネルは聞き逃さなかった。



ケルベアーを討伐に行った?!

…ケルベアーなんてやたらめったら出現するような魔獣では無いはず。付近で目撃される個体は大体同一のものだ。



ということは…絶対あの目つきの悪い闇魔法の男といたケルベアーに違いない。








そうだとしたら…









不味い…。






かなり不味い事になっている。








討伐に行った冒険者とやらがケルベアーに勝てるかどうかは分からないが、間違いなく闇属性魔法の使い手の存在が世間に露呈してしまうだろう。



そうなると、もはやただの騎士見習いの私に出番はない。




英雄と呼ばれる人達や"勇者"が討伐…ないしは捕縛に向かうだろう。





そうなってしまうと武勲を挙げるという私の目標はいつ達成されるか分からない…。




不味い…不味すぎるー!!!








…いや、嘆いてばかりではいけない。幸い今ナオス騎士団のほとんどの人が帝国との戦争に備えて出払っている。



現在ウタヤ村周辺に駐屯しているのはほとんどが騎士見習いと監督を任されたベテランの騎士だけだ。





普段よりは自由な時間がかなりある。







良し…行くしかない!森に行って冒険者とあの男が鉢合わせしないように私がなんとかするしかない!!



これは純粋な乙女の夢を守る為の戦いよ!負けられないわ!!







「あっ!ちょっと騎士団の方!!どこへ?!」







リアは決意を胸に、騎士団の雑務を放り出してデスデモーナ大森林へと向かった。



















(きっ、気まずい…)



銀翼の鷲のキャンプ地に来た利央は、テントの中で地獄を味わっていた。




久しぶりに人と会話できることにテンションが上がってしまい、道中の1時間くらいの間、一方的に喋り散らしてしまった。






思い返してみると道中、彼らは微妙そうな…こわばったような顔で俺の話を聞いていたような。




特にケル吉とスネ夫の戦いの話のときは顔が青ざめてすらいたように思えた。




これ以上は不味いと思い沈黙すると、誰も話さなくなってしまい、かれこれ1時間は全員が無言のまま時が流れている。





そんなこんなでテントの中は地獄のような空気になっているのだ。




「あのー…」



「はっ、はいー??」



「いや、みなさんは何歳くらいなんですか?」



「私共はみな20歳でございます利央様」


「いや、利央様はちょっと…てか同い年じゃないですか!!なんかもっと上だと思ってました!特にシャーリーさん」


シャーリーはハリウッドスターのような美貌でえらくスタイルが良いので出会ったときから幾度となくチラチラ見てしまっていた。


「いえ!とんでもございません!!私などはまだまだ子供…すいません!!それだと同い年の利央様を子供だと言っている事に…」


「良いんですよ!実際まだ学生ですし、てかシャーリーさんはキースさんかドンファンさんのどちらかと付き合ってたりするんですか?」



この空気をどうにかしようとクズ特有のデリカシーのかけらもない質問をしてしまった。


「い、いえっ!そのようなことは…」



3人の顔が少し赤く染まったのを見逃さなかった。


「あー、なるほど!そういう感じなんですね皆さん。まあ男女の関係は難しいですよねー」


「「「なっ?!」」」


3人の声が揃った事に利央は思わず爆笑してしまう。


この人達は見た目は完全な大人なのに中身は中学生みたいだなと。






空気が良くなった(利央はそう思っている)頃、テントの外から物音が聞こえてきた。



3人の顔つきは一気に真剣なものに変わる。


「利央様…魔獣か、いやもしかしたら亜人かもしれません」


「亜人?」


亜人とはなんだろうか。不死身の人達のことか??



「ニンゲンガヨニンカ…イクゾッ!」


耳障りな声と共に小さい影がテントの中になだれ込んで来た。


「ゴブリンかっ!!」


「やるぞ!!」


「利央様!ここは我々に任せて…あれ?利央様??」




利央の姿は既にテントの中には無かった。

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