第1章「スネ夫」

蛇が吹き飛んでいったのを見て、利央はケル吉の元へ駆ける。


「ケル吉?!大丈夫か?!?!」

「バウゥゥゥ…」


ケル吉は蛇の毒が回っているのか、とても辛そうだ。早く解毒しなければ命に関わるだろう。


「どうしようどうしようどうしよう?!?!…そうか!!!!!」


利央はとっさに閃く。毒を生み出した張本人ならなんとかできるのではないかと。




初めてケル吉と出会った時…よくわからないけどケル吉はあの黒いモヤモヤを通じて自分の命令を聞いていた。


ならば蛇にも同じことが出来るかもしれない。


そう考えた利央は急いで先程吹っ飛んでいった蛇の元へと走る。




蛇は50メートルくらい先の木に激突してようやく止まったようだ。一直線上に木々が折れていて、蛇が吹き飛んでいった跡が痛々しく残っている。




蛇は完全に伸びている様子で、ピクピクしているが動いていない。



利央はとにかく力強く念じる…


(俺の言うことを聞いてくれ!!頼む!!)


利央の両手は黒いモヤモヤを生み出した。


「良し!!出たぞ!」


そのまま利央は蛇に向けて言葉を発する。


「ケル吉の毒をなんとかしてくれ!!!」



黒いモヤモヤは手から放たれ、蛇の身体へと入っていった。


蛇の全身が黒いモヤモヤに包まれると蛇はゆっくりと動き出し、のしのしとケル吉の方へと向かう。


「大丈夫…だよね?」


なんとなく蛇と通じたような気がしたから恐らく大丈夫だろうと思う。


蛇は苦しそうにしているケル吉に優しく噛み付くと紫色だった牙を白色に変色させてなにかをケル吉に流し込む。



それが何かは利央には分からないが、ケル吉を助ける為の行動だと確信が持てたのでただただ見守っていた。





しばらくするとケル吉は立てるくらいまでに回復した。その間蛇は微動だにせずにずっと俺のことを見ていた。




回復したケル吉にまたがり、利央はまた先へと進む。


蛇の方を見るとやはりこちらをずっと見ている。ケル吉を殺しかけた蛇だが…心が通じた後の蛇の態度、嫌いではない。






「…………一緒に来るか?」





「シャア!」



一鳴きした蛇は利央とケル吉の後に続いて動き出す。




「うーん…そうだな、お前の名前は…」



蛇は英語でスネークだっけ?なら…




「お前の名前は"スネ夫"な!よろしくなスネ夫!」


「シャァァア!!」



スネ夫は嬉しそうに鳴いた。















「せやぁ!!!」


騎士団の鍛錬を終えた私は全体の鍛錬とは別に毎日自主練をするようになった。いまはその自主練の真っ最中だ。



私…リア・タナルカ・アーネルは武勲を挙げ騎士団の英雄となり貴族の家とは無縁の生活を送ることを夢に見て、日々たくましく生きている。



そして先日早速武勲を挙げるまたとない機会が訪れたのだが…正直今の私には力不足だったと思う。



あの闇の魔法を使っていた奴はケルベアーを従えていた。ケルベアーの体当たり自体は少し痛かったくらいだがあれが本気でなかったことくらいはわたしにもわかる。


ケルベアーが本気で殺しに来たらどうなるか…このナオス騎士団でサシの勝負でケルベアーに勝てる人物なんて幹部の4人とハンス団長くらいだろう。


ケルベアーとは本来、金等級の冒険者でやっと張り合えるといった実力を持った魔獣だ。私レベルでは相手にならない。


あの軽いタックルで怪我をしているようではこの先歯が立たないだろう。


だから私は強くなる必要があるのだ。



あの男はいずれ闇魔法を極めてケルベアーよりも強力な配下を従えることだろう。



しかし私はあの男を捕まえ、英雄にならねばならない。


あの不潔なデ…男と結婚するといったこの世の終わりを迎える前に、なんとしてでも武勲を挙げるのだ。




それがこの私、リア・タナルカ・アーネルが叶えなければならない夢…いや目標である。





そうした思いを秘めてリアはひたすらに剣を振る。

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