第6章「無念」

「…申し訳…ありません…魔王…さ…ま……」



「…ドラ男君」



前線から大至急クーズー城へと運ばれてきたドラ男は、全身の鱗がボロボロになっており、竜人族が誇る鋼鉄のように硬く龍のように美しい鱗は見るも無残な状態であった。




ドラ男君はこれから魔王軍中から集められた回復魔法を扱える者が集中的にドラ男君を治療する予定だが、幾ら万能な魔法であっても、あのレベルの怪我は…




利央の頭に嫌な考えが浮かぶが、それを振り払うように利央は早足で医務室を出る。




ドラ男の状態を確認した利央は、自分の務めを果たすべく会議室へと向かう。





そして席に着いた利央だったが…



「クソが!!!!!」



先程の変わり果てた部下の姿に、利央は怒りを抑えることが出来ずテーブルに拳を叩きつける。






「リオ…」




「リオ様…我々も同じ気持ちですぞ」




「くっ…」




緊急の会議で集められた幹部の面々は利央の気持ちを察する。





未だ怒りの収まらない利央であったが、感情のままに暴れ回っていた以前とは違う様で…



「ジーバ君!!敵は??」




利央の目は怒りのこもった目であったが、その目は確実に標的を捉えようと獲物を見据える鋭い目であった。



そして先程の怒りに満ちた様子からは打って変わって、冷静さを取り戻しているようであった。





「はいリオ様、逃げ帰った者の話によると、どうやらドラ男殿を討ったのは例の"天使"らしいですな」




「バフースでジーバ君が会った奴か…。この前もちょっと話だけど、セオス教国?だっけ?そいつらで間違い無いんだよね?」




「ええ。天使が創造神セオスの使いであることはセオス教の教え…教典?だったかしら。それによって一般的に知れ渡っているそうよ」




「国自体は大山脈の向こう側にあるんだよね?…まあ、そこはいずれ滅ぼすとして。問題はドラ男君やホー君に打ち勝つだけの力を、その天使たちが持っているってことか」




その場にいた者たちが敢えて口にしていなかった言葉を、利央は躊躇いも無く話す。



魔王軍内にて個人の武勇では最上位に位置する幹部たちが敗れた事を…





「腹の立つ奴らだけど、実力は確かってことね」




「なんでも逃げ帰った者の話ではスケルトンウォリアーが光魔法の一閃で容易く葬られたとか」




「それにリオ様、北部と中部に侵攻している軍はどうしますかな?敵の確かな戦力は不明ですが、このままでは北上して我が軍に追撃を加えてくることもあるかもしれませんぞ」





利央は全員の話を聞きながら、頭の中でどうするかを思考していた。




魔王には全てにおいて決定権がある。


つまるところ、魔王の一存で数万、数十万の命の行方が決まるということだ。



並の人間にとっては重大なプレッシャーがかかる場面である。




更には部下の無残な姿を見て怒りの感情が収まらずに動揺してしまっている利央が冷静な判断を下せるのかというと…





「ジーバ君、天使の数はそれ程多くは無いよ。もっと数が居るはずなら最重要拠点のモルガンに2人だけっていうのは少な過ぎる。それに追撃の手は現状では考えにくい」




「何故ですかな?」




「広範囲を殲滅するには2人という数は少な過ぎる。中部や北部は広大な土地に都市が点在しているからね、都市の奪還には数が必要だと思うんだよね。2人じゃあ奪ったとしても防衛もできないし、移動も出来ないでしょ?だから現状では敵はモルガンから動かないと思う」




「…お見事ですな、リオ様」



「リオ…貴方どうしちゃったの?いつものボケーっとした貴方からは想像もつかない鋭い考察ね」



「さすがリオ様です」




「ありがとうなゴブ一郎にジーバ君。そこの失礼な人に後でよーく言い聞かせといて。…という事だからミノタウルス君とオーム、リザロペアはそのまま待機。そして行方不明のホー君の捜索にはとっておきの部隊に出てもらうとしようかな」




そう言い終えた利央の顔は、会議が始まってから始めて明るさが受け取れた。



「とっておきの部隊?…スケルトンウォリアー部隊のこと??」



「違うよシャーリー。アイツらは瞬殺されたってさっきゴブ一郎が言ってたでしょ?…たぶん空からの攻撃に対する反攻手段が無いってのもあったと思うんだよね。まあ、そこは今後の課題でもあるんだけど…」



「瞬殺って…寝る間も惜しんで必死に作ったのよ?!」



少し泣きそうになっているシャーリーを宥めるように…



「ごめんて!言い方が悪かった!手も足も出ずにやられちゃったからさ…」




「…変わってないわよ」




「…んん!兎に角、ホー君の捜索はスケルトンウォリアーたちじゃなくて!とっておきの部隊…"ナナちゃんのドラゴン部隊"に行ってもらいます」




「なんと!!あの子は既に"龍"を?!?!」




利央はジーバ君の驚きに満ちた様子に満足しながらも…




「うん!だけど俺たちも行くよ!!魔王軍に手出したらどうなるか思い知らせるんだからな」




利央の表情には再び怒りが籠っているようであったが…





「ねぇジーバさん、先に手を出したのって私達じゃあ?…」



「シーッ!シャーリー殿!それを言ってはなりませんぞ!!」



「…」





こうして利央たちは王国南部都市モルガンへと向かって出立するのであった。

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