第6章「救助」
「ここは…一体?」
目覚めると見たことのない森の中に横たわっていた。
「…はっ!そういえばあの天使とか言う奴が、、、痛っ」
身体を起こそうとして手や足を動かすのだが、骨が軋むような激痛が全身を襲う。
更に今は極少数になってしまった一族の中でも、一際大きくて立派な翼が…
「くっ!…翼が動かない…。あの魔法で相当なダメージを負ったんだな…クソが!!」
魔王軍幹部。鳥人間として知られるホークマンのホー君は先の戦いを思い出し、声を荒げる。
「目が覚めたようだな」
そんなホー君に声をかける者が1人。
この声は最近になってよく聞く声である。
「リザロ?…か??」
「ああ」
首だけ動かして声のする方向を見ると、緊急移動用に幹部に支給されている希少な魔獣であるペガサスの毛並みを手入れしている同じく魔王軍幹部のリザロの姿があった。
しかし、リザロは確か北部攻略軍のはずだ。何故南部に?
「どうしてお前が此処に?!北部はどうした!!」
「ふっ。それだけ喋れれば平気だな…。北部はオームに任せてきた。南部攻略軍が壊滅…ドラ男が重傷を負いお前が行方不明という情報を聞いたのでな」
「何?!あのトカゲ野郎が重傷だと?!?…あいつは無事か?!?!なあ!リザロ!!!それに俺が行方不明って…。確かに俺は天使との戦いに敗れた。…もしかしてお前が俺を助けてくれたのか?」
「まあ、落ち着け。それにドラ男はどうやら死んでは無いらしい」
そう返事をすると、リザロは倒れているホー君には目もくれずに森の中に向けて何かを叫ぶ。
「お、おい!そんな大声で叫んで大丈夫なのか??」
「大丈夫だ。ここは既に我らのデスデモーナ大森林。お前の傷を心配して止まっているだけだ…それに」
「それに?」
「お前を助けたのは俺じゃない…俺が戦場に着いた時には…あっ!来てくださったみたいだ」
「お前じゃなかったら、他に誰が………?!」
森の中からは木々が揺れる…激しく動き、何か大きな生き物がこちらに近づいて来るのが分かる。
そして大きな遠吠えの様な鳴き声がすぐ近くから聞こえて来た。
「バウゥゥゥゥゥゥゥゥウウ!!!」
「この鳴き声は…ケル吉様?!?!」
ホー君の言葉とともに姿を見せたのは、三つ首の恐ろしい魔獣。
我らが主人と一番古くから共に歩んでいる、魔王軍のレジェンド。ケルベアーのケル吉様の姿がそこにあった。
ケル吉はホー君に近づいて行くと…
「ああ!ケル吉様!!くすぐったいです…あっ!」
3つの首を上手く使い、それぞれの頭でペロペロと傷を舐めるようにして優しく寄り添ってきた。
「…でも何故ケル吉様が??確かトカゲ野郎の部隊におられたはずなのに」
「生き残った者に聞いた話では、空に炸裂した閃光を見た途端にケル吉は何処かへ走り去ってしまったらしい。…で、俺が戦場に着いた時にはボロボロのお前を抱えたケル吉様をお見かけしたという訳だ」
「なんと!!…ケル吉様、、、」
「バウッ!!」
擦り擦りとふかふかな身体で、優しく触れてくるケル吉の姿を見て、ホー君は言葉に詰まる。
失われつつある種族の再興…。
それを目指して親友だったエルフとも別れ、故郷の大山脈を飛び出し、裸で飛び込んだ魔王軍であった。
魔王軍の仲間たちは皆いい奴であり、偏見や差別…まして人間の様に、我らホークマンを捕らえて何処かへ連れ去ったりなどはしない。
しかし、そんな良い奴らである彼らも俺にとっては競争相手でしか無かった。
種族の再興の為には、魔王軍内で出世するしか道は無かったからだ。
相手がヘマをすればしめしめと思うことすら多々あった。何なら戦場で脱落してくれれば御の字なんて考える事も…。
しかし、自分が死にかけて初めて実感した。
遥か遠くから駆けつけてくれる仲間や、ケル吉様の様にどうやってか自分の身を、それこそ身を呈して守ってくれた方がいる事に。
どうやら俺は目標に固執し過ぎてしまって、目の前の大切なものを見落としてしまっていた様であった。
先程、相性最悪であるドラ男の奴が重傷だと聞き、自分自身が居ても立っても居られなくなった事で気づくことができた。
何の為に生きるのか。
大切なものを失ってまで手に入れた物に何の価値があるのか。
俺にとって魔王軍は…この仲間達こそが…
「ん?!泣いているのか??普段のキレやすいお前は何処へ行った?」
「うるへー!くそぉ…。すまねぇな、、負けちまって…」
「そんな事は気にするな。魔王様もよく言っておられるぞ?世の中には相性というものがあるとな!俺だって油断すればスライムに殺される事だってあるってな」
「魔王様は冗談が下手なのだな…。ふっ、そうか…ありがとうなリザロ」
リザロは笑顔でホー君と頷き合う。
「兎に角!早く怪我を治せ!今のお前の仕事はそれだけだ」
「ああ、一刻も早く怪我を治して戦線に復帰しないと…仲間の為に」
「ああ…そうだな」
「バウッッ!!」
2人と1匹は決意を固め、その時を待つのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます