第3章「動き出す大国」

「戦争は避けられないか…」




オベロン王国最高意思決定機関、王貴院において国王オスカー・ネル・オベロンは悲痛な声を漏らす。







デスデモーナ大森林の南において領土を接する、オベロン王国と帝国…正式名称は"コーデシア帝国"と呼ばれる両大国。




現在この人間種の大国間において、戦争の機運が高まりつつある。





今までは国境付近における睨み合いが続いていた状態であった。




睨み合いで済んでいたと言うべきかもしれない。







睨み合いで済んでいたのは、巨大な国土を持つ帝国が王国とは反対側において亜人連合との戦争が続いており、そちらに戦力を割いていたからというのが大きいだろう。




しかし先日、亜人連合との戦争が休戦を迎え、王国との国境線に帝国軍が続々と集結しているとの報告がこの王貴院にてなされた。




「しかし帝国か…亜人連合との戦争を終えたばかりだと言うのに、どこにそんな余力があるのだ?」



「なんでも噂によると最近開発された"魔導"による兵器が凄いらしいですな」



眼鏡にタキシード、王国における有力貴族の1人であるルシュコール公はそのように発言する。



「そうか…そのような兵器が」




無謀にも思える領土拡大を狙った侵略戦争の数々…とんでもない何かがなければ不可能だと思っていたが、さすがはルシュコール公。既に情報を掴んでいたとは。






「それで皆、此度の戦争なのだが…皆の協力無しには帝国に対して反抗するのは不可能である」






普段の王貴院では、自分たちの権利ばかり声高に主張するだけの貴族達だが、今回ばかりは王も彼らに頼らざるを得ない。




なにせ王家の力が落ちてしまったために、戦費や徴兵、様々な面で貴族の力無しでは国が守れないからだ。





王が頼みごとなんて情け無いことであるのは重々承知しているが、これ以外に王国が生き残る道は無い。




「顔を上げてくださいオスカー王!!我らとて帝国の侵略を受ければ領地が無くなります!ですから協力するのが当然です!!!…そうですよね?モルガン公??」



「…ああ、そうだ!当然だとも!!」



ルシュコール公は王へ紳士な態度で協力を申し出た。そして更に続ける。




「それに私の手にした情報によると…王国の大貴族がどなたか帝国に寝返っているらしいですな。まあそんな愚か者はいないと願いたいですが…」



「なんと!!」


「そのような不届き者が?!」


「それに大貴族であるか…なら公爵位を持つ貴族か?」



カイゼル髭がトレードマークのモルガン公はここぞとばかりに声を上げる。




「それがルシュコール公という可能性もあるのではないかな?」


「ほう?…貴方がそれを言いますかモルガン公」


「…どういう意味かね??」



ルシュコール公はモルガン公の質問に答えること無く、議会全体に呼びかける。







「尊厳ある王国貴族の皆、それに由緒ある王家の血筋を引くオスカー王!!此度の戦争は王国始まって以来の危機である!!団結して事に当たらねば、帝国に容易く飲み込まれてしまうだろう!!…だから私は提案する!」





王貴院はルシュコール公の言葉を固唾を呑んで見守る。








「この前現れた"魔王"…あやつを帝国にぶつける事を!!」



































「ふんっ!!王国軍など容易く殲滅できるというのに…上は何をしている?!」




棒の先端に刃物を付けたような武器…薙刀というべきか。それを華麗にそして力強く振り回しているのは、筋骨隆々の男。




「貴方は少しは我慢を覚えなさい。力だけでは戦争には勝てませんわよ?」




この辺りではあまり見かけない布面積の少ない和装を纏った、妖艶な女は男をなだめるように言う。




この2人はコーデシア帝国第2軍軍団長のラモンと第3軍軍団長ヒリエである。






2人は現在オベロン王国との国境付近にいる。




帝国軍は全兵士が"統一された装備"を身につける中、2人は各々の好きな服に身を包んでいる。それだけ彼らの力が突出していると言う事だ。







帝国軍は全部で10の軍団に分かれていて、それぞれの軍団には軍団長なる指揮官がいる。






この10人は各々が突出した力や魔法を持っていて、帝国の莫大な軍事力そのものとも言える。





今回の王国との戦争は第2軍から第4軍までが動員されていて、他の軍団は別の場所へと向かっている。




それだけ帝国の力は他と隔絶した差があるのだ。




「それにしても…第5から第10軍までの奴らはどこへ行ったんだ?!お前は何か聞いてるんだろう?ヒリエ」


「直接聞いてはいないわ。…なんて言ったかしら?"軍事機密"?だったかしら、それで言えないらしいわよ?」


「なんだそれは?」


「さあ?私もわからないわ。なんて言ったって"元帥"が使ってらっしゃったんだもの」


「ああ!そうなのか、それなら俺たちには理解できない事なんだろうな…」


「そうね、ただ私たちはあの方の手足となって働くだけで良いの。あの方のお陰で帝国はここまで大きくなったんですもの」



ヒリエは続ける。



「とにかく今は待つの。第4軍の到着も遅れているらしいものね」


「くぅうう!!早く戦いてぇなぁ!!!」











2人の軍団長は知らない。






帝国軍第4軍団がデスデモーナ大森林にて謎の武装集団に襲われている事を…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る