第2章「英雄」
「…ピーターか、貴様何しに来た?」
リアを守るために現れた男に対して、王国軍最高司令官ヴォルフ・ルドルフは不快げな表情を見せる。
「ヴォルフか…"相変わらず"この国はこんな事をしているのか?」
ピーターと呼ばれた男は笑顔を見せてはいるが、その内に並々ならぬ怒りがあるのをヴォルフは感じ取っていた。
「その様な事を国を捨てた貴様に言われる筋合いは無い!」
二人のやり取りを見て、広場の国民にざわめきが生まれる。
「ヴォルフ様に楯突いているあいつは何者なんだ?」
「お前知らないのか?!、あの方は"ピーター・ゼン"。20年前にヴォルフ様と共に英雄として勲章を授与された"元"白銀等級の冒険者だよ」
「白銀等級?!…王国には3組しか居ないと聞いて居るぞ?」
「そうだ!"沈黙の影""比翼の虹鳥"それに"白亜の龍"の3組だった筈!」
「それがもう1人居たんだよ…王国初の白銀等級にして、白銀等級の更に上、"白金等級"の冒険者が…」
「それがあいつか?!」
「ああ、けど10年程前に姿を消して以来、何の情報も無かったはずだがな」
ピーターはおもむろに口を開く。
「…ああ、そうだな。確かに俺は国を捨てた。…だけど俺は民を捨てた訳では無い」
更にピーターはリアを見ながら続ける。
「国を想い勇気を振り絞って行動してくれたこの子の気持ちをお前は分かるか?ヴォルフ。守ろうとしていた者から裏切られる気持ちを!!…俺は痛い程わかる」
「…貴様、やはり"あの事件"の事を未だに…」
「民を正しい方向に導くのが国の役割だ。それがこの国は今も昔も相変わらず出来ていない…ヴォルフ。お前は何の為にそこに居る?何を為すためにその地位にいるんだ?」
ヴォルフは一瞬、寂しそうな顔を浮かべるが…
「…黙れ!俺にはやるべき事があった。呑気に冒険者などやっていた貴様とは違ってな」
すぐにその顔は怒りを含んだものへと変わる。
「…そうか、残念だよ」
ピーターは10年前と変わらない旧友の姿に胸を落とす。
そして国民の方へ向き直ると
「民たちよ!この様な勇気ある行動をした少女を嘲笑し、傷付ける行為をして何を思う?…自らを恥じている者も多くいるはずだ」
リアへの投石が始まってから、広場にいた半数の国民がためらいを見せていた事をピーターは言っている。
その証拠に、多くの国民が互いに顔を見合わせて悔しそうな表情を見せる。
「しかし、国が…そして貴族が誤った方向へと皆を導いた事にこそ問題は起因する。…皆はその後悔と自らを恥じた気持ちを大切にして欲しい」
ピーターは貴族が座る貴賓席を…紳士風のある男を見ながら国民へと語りかけた。
「そして"見せかけの英雄"では無く、"真の英雄"を自らの手で傷付けた事を深く反省して欲しい。それが出来ればこの国にまだ希望はあると私は信じている」
英雄の雰囲気を放つピーターの話に、広場は完全に飲まれている。
「ピーター・ゼン。そこまでだ」
沈黙を保っていた国王、オスカーはその口を開く。
「王家を見限って国を出たそなたに我らを批判されるのは致し方ない。…しかしこれからの王国に必要な英雄…リオ殿のことを見せかけの英雄などと言われては私も黙ってはいないぞ?」
国王は真剣な表情でピーターにそう告げた。
「オスカー王…。貴方は昔から事の本質を見抜く力が無いようだ」
「貴様!!王を侮辱するような発言は…」
「良いヴォルフ!…何が言いたい?ピーター・ゼンよ」
ピーターは再び貴賓席を一瞥し、それから利央の方を見ると
「百聞は一見にしかずとはよく言ったものだ…。言葉よりも見た方が早い。それを今から見せたいと思います」
ピーターは利央に向かって歩き出した。
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