第1章「クズでも譲れないもの」
利央とケル吉の前に現れたそいつは…。
人の3倍はあるだろうケル吉よりも更に大きな…というか"長い"身体、毒々しい紫色に煌めく立派な牙、そしてギロリと動く鋭い目に黒く輝く鱗。そう巨大な蛇が現れたのだ。生き物としてのランクはケル吉よりも上のように思える。
「シャァァァァァア!」
「バウッッッ!」
1体と1匹は互いに威嚇をしながら徐々に距離を詰める。
これは完全に"始まる"雰囲気だな…。ケル吉を捨てて逃げるか?
…
いや、それは…少し戦いを見守るか。
そして両者はさらに距離を詰めて、ついに闘いが始まった。
巨大な蛇はケル吉の3つある首目掛けて牙を突き立てようとブンブンと首を振る。
流石のケル吉もあの紫色の牙を喰らえばタダで済みそうにはない。
確実に毒があるだろう。
それがわかっているのかいざ知らず、身体を大きくしならせながら牙を振り回してくる蛇の攻撃をケル吉は避けるので精一杯の様子だ。しかしケル吉は逃げようとはしない、自分がいるからだろうか。
「逃げろよ!ケル吉!!お前じゃ勝てないって!!」
「バウッッッー!!!!!」
ケル吉は自分を振るい立たせるように吠えると、蛇へと向かう。
「なんで逃げないんだよ…」
ケル吉に反撃の暇は全く無い。たまに爪で反撃を繰り出すも蛇の鱗にはじかれてしまっているようだ。そして蛇はあの巨体でなかなかのスピードがあり連続で攻撃を繰り出してくる。
ケル吉は終始防戦一方…ケル吉が負けてしまえば自分など一噛みで殺されてしまうだろう。
ならば冷静に考えてここは逃げるべきだ…ケル吉を見捨てて。
さっき会ったばっかりの化け物みたいな奴じゃないか、見捨てても別に…。
…
自分で言うのもなんだが、俺は「クズ」だ。
今まで辛い事から逃げて逃げて逃げて生きてきた。
しかし、クズになってしまったのにもそれなりの理由がある。
それは俺の祖先…明智なんとかとかいう奴のせいだ。
そいつは仕えていた殿様を裏切って本能寺とかいう場所で殺してしまったらしい。
そいつが歴史の教科書に出てきたときにおれはみんなから
「裏切り者」
と呼ばれるようになった。
何もしていないのに、今まで仲が良かった奴も俺を裏切ってみんなでいじめてくるようになった。
お前らの方が裏切り者じゃないか。そう言ってやりたかったが、その頃の俺は小学生だったし、ただただ理不尽ないじめを受け入れるしかなかった。
そのせいでこんなねじ曲がった性格になってしまったのだと思う。
自分の血筋を恨んで自分の家柄を恨んだ。
俺の先祖が裏切りなんてしなければ…普通の人生を送れたのかもしれない。
…
だからこそだ。だからこそ俺はどんなにクズな人生を送ろうと、絶対に自分の味方を裏切るような事はしないと決めた。
友を、慕ってくれる者を、仲間を裏切るくらいなら死んだ方がマシだ!
眠たそうに開かれていた利央の目は心なしか少し見開かれた。
利央は決意を固めて走り出す。
少し前に出会っただけかもしれない。本当に自分を好いてくれているのかも、なぜ好いているのかも分からない。だけど見捨てて逃げる事はこんなクズな自分のたった一つの譲れない想いに背く事だ。
ケル吉の方が逃げてくれれば楽だった。裏切られる事には慣れているから。だがあいつは逃げなかった。
ならば俺は…
ケル吉を救う。その気持ちを強く持てば持つほど利央に力が溢れてきた。
右手に先程の黒いモヤモヤが再び宿る。
「もう貧乏神でもなんでもいいわ!とにかくケル吉をなんとかしてくれっっっ!!!!」
そう強く願うと、右手のモヤモヤは手から浮いて丸い球体となった。
利央は直感的にこれを蛇にぶつけるしかない、そう感じた。
ケル吉はギリギリのところで蛇の攻撃を避けていたが、もう限界が来ているように見える。ところどころに切り傷が出来、毒が回っているようでフラフラしている。
「ケル吉!!!!!」
「バウゥ…」
ケル吉は力なく倒れる。蛇はケル吉にトドメを刺そうと…
「くそがぁぁぁあ!!いっけぇぇぇぇええ!!!!」
利央の右手から放たれた"暗黒の球"はものすごいスピードで蛇に向かって飛んでいった。
「シャア?」
蛇がその球を視認するよりも早く暗黒の球は蛇に直撃し、蛇は突如として生まれた圧倒的なパワーによって吹き飛ばされていった。
「シャァァァァァァァァァアアアアアアーー!ー!ーー!ー!!ー!」
蛇は数十メートル先まで吹き飛んでいった。
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