第6章「女帝」

「…人間?!?!?しかも女性!?」





オームに連れられクーズー城にやってきた亜人研究家ことフォーブルと、その助手であるエルフのソフィーの前に姿を現したのは…




「あらオームじゃない?どうしたの?」





「なんと?!魔王は女性だったのか!!それに………美しい!!…あ痛っ!」





黄金色に輝く金髪は派手な装いを呈して、彼女のスタイルの良さを際立たせている。端正に整っている顔は、かつてその身一つで様々な権力を思いのままに動かしたという伝説の美女であるかの様に…



シャーリーを見て思わず現実から離れてしまっていたフォーブルだったが、ふとした瞬間に横を見ると、オーガのような表情でこちらを睨みつけて来るソフィーの姿が目に入ったのだった。



そしてソフィーは思いっきりフォーブルの足を踏んだ。






「それでオーム…この人たちは?」





「はい。シャーリー姉さん。こいつらは王国で捕らえたのですが…なんでも亜人研究家?だとかなんとか。どこか普通の奴と違ってたんで魔王様に会わせようかと思いまして…」




シャーリーは2人を一瞥し



「ふーん…。残念だったわね、リオは今留守にしているわ」



「そうなんですか?!魔王様はどちらへ?!」



「モルガンにドラ男の敵討ちに行ったわよ。しばらくは戻らないんじゃないかしら?」





シャーリーとオームの会話から、魔王がシャーリーでないことに気づいたフォーブルは若干残念そうな面持ちになると



「じゃあ貴女は一体…」




「私は…」




「おい!フォーブルとやら!!聞いて驚くなよ??この方はな!魔王軍最高幹部の1人であり、"死の女神"として名高いシャーリー・ミーシャ姉さんだぞ?!シャーリー姉さんに対してはあの魔王様もたじたじなんだぞ??」




フォーブルの問いに対して、魔王軍一の太鼓持ちと評判のオームがやや食い気味に答えてきた。





「オーム!話し盛りすぎ!!」



「しかし姉さん!こんな奴らに舐められないようにと…」





「ミーシャ??…どこかで聞いた家名だが…。それにしてもお美しい方だ」



「チッ」




森の妖精から舌打ちが聞こえてきた気がするが、フォーブルは気づかないふりをして続ける。



「それで…貴女は何故魔王軍に??見たところ普通の人間のように見えますが」




「そうなのよ!!私はか弱いただの人間なの!!周りに化け物みたいに強い人がいすぎて困ったことに私まで強いと思われてるのよ…ミノタウルスさんと戦ったら私なんて数秒でやられちゃうわよ」



「しかし姉さん、良くお風呂を覗こうとした魔王様に平手打ちをお見舞いしているじゃないですか。それにミノタウルス君の事を顎で使ったり…あ痛っ!」




シャーリーからのきつい一撃が決まったところでソフィーが声を上げる。



「先生からの質問に答えてくれないかしら??何故貴女のようなただの人間が魔王軍に?」



「おい!ソフィー!そのような物言いはやめろ」




何故だか攻撃的な森の妖精の問いに対して、シャーリーは自信満々に答えた。




「そんなの一つしかないわ…楽しいのよ。リオと居ると」




「楽しい??…魔王と居ると?」




「はっはっは!それは間違いないですな姉さん!!」



愉快そうに笑うオームを尻目に、シャーリーは続ける




「ええ!…今まで忌み嫌われていた私の魔法も、彼は面白おかしく笑いながら受け入れてくれたわ。それに…何度も死にそうになっても、彼が居れば大丈夫。きっと助かるって思えたの。いつもはおちゃらけているけど、いざって時は彼以上に頼りになる人は居ないわ」




「うんうん」



大袈裟に首を縦に振るオーム。



そしてシャーリーの言葉を受けて2人は…





「何と…魔王リオとやら、それ程までの人物とは…。早く会ってみたいものだな」



「そうですね先生。"あれ"を託すに値するのかどうか…早く見極めないと」






そんな2人の様子を見てシャーリーは




「兎に角、リオが帰ってくるまでここに居たら?自慢じゃないけど、ここは王国や帝国、教国のどんな高級な宿よりも快適よ」



「うんうんうん」




またしても大袈裟に首を縦に振るオームを尻目に、2人はしばらくの間魔王の居城へと滞在を決めたのだった。

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