第2章「謀略」
国王オスカー・ネル・オベロンを始め、歴史ある王都中央広場に会した数万人の人々は、一斉に驚愕したようにあんぐりと口を開け、目の前の光景を眺めてる。
しかし、それは数人を除いてだが…。
その数人のうちの1人、眼鏡に品のあるタキシードを纏った貴族…ルシュコール公は表情1つ変えずに貴賓席から立ち上がる。
他の貴族が闇属性魔法の余りの威力と禍々しさに言葉を失っている中、彼は1人席を立って歩き出す。
「…ふん、失敗か。また別の手を考えるか」
ルシュコール公は人知れずにそう呟くと、静かに広場を後にした。
ルシュコール公が広場から去ったのと時を同じくして、影から授与式の様子を伺っていた2人の人物も目の前の光景を眺めて尚、その心境は他と異なっていた。
「わお!すげえ威力だな!!」
「だなだな!!…だけどこれって、バレちゃったって事だよね?あいつの力」
「だな!帰って報告しなきゃだな!!」
「帰るか…"帝国に"」
似たような声質をした、2人の人物は深くフードを被り広場を後にしたのだった。
そしてもう1人…事の発端とも言える人物、ピーター・ゼンもまた当然のように現状を把握していた。
闇属性魔法の直撃を食らっても軽傷で済んでいるのは、事前に準備をしていたためだ。
「あの婆さんの言った通りだったな」
ピーターはそう言いながら、盾にしていた"禍々しいオーラを纏うマント"のちりを払うようにパタパタと叩く。
知り合いの婆さんに言われて10年振りに王都に来た彼は、婆さんの予言通りの事が起きた事について感心する。
「あの婆さんの"予言"は凄いねえ、闇の魔法の使い手の出現まで言い当てちまうんだから」
ピーターはリオと呼ばれていた男を見てそう呟く。
「それにしても…マントが無ければ少しやばかったか?」
ピーターは自分が立っていた地面以外の広範囲の地面が抉り取られているのを見て、そんな風にぼやく。
事前に準備しておいた遺跡から手に入れた"遺物(アーティファクト)"が無ければかなり危なかったかも知れない。
それ程までに危険な力という訳か…。
ピーターは改めて、新たに出現した脅威について認識する。
そして脅威と認識された…いや、されてしまった当の人物はというと。
やべぇ!!やっちまった!!ついカーッとなってやってしまった!!!
ケル吉達の事となるとつい熱くなってしまうんだよな…。
利央は後悔するが、それも一瞬。
とにかく…
逃げよーっと!
闇属性魔法の直撃によって生じた粉塵や煙が辺りを包んでいる隙に、利央はチャカに乗って猛スピードで広場を後にするのだった。
「今のは一体…」
国王オスカーは未だに現状を呑み込めないでいた。
あの様に禍々しいオーラを纏った魔法…あんな魔法は見た事が無い。
それに火球(ファイアーボール)程の大きさで、火球とは比較にならない程の超越した威力…あれが民衆に放たれていたと思うと…
オスカーの背筋はぞっとする。
国民もまた呆然と目の前の光景を眺めていたが、次第に
「…今のは、…何だ?」
「わ、わからねえ…わからねえが、とにかくとんでもないもんだった…」
「英雄があんな魔法を使うのか?…というかあれは魔法なのか?あんな魔法があって…いいのか…」
広場にいた数万を超える国民の間に流れたのは圧倒的な恐怖…
それも人間ではどうすることもできない物に対しての本能的且つ潜在的な恐怖だった。
「民たちよ!!今の光景をその目に焼き付けたか?…あの脅威にこの少女は…リア・タナルカ・アーネルは1人で立ち向かっていたのではないか?」
ピーターは国民へ問う
「それがどんなに困難な事か…それをこの場で伝えることがどれほど勇敢な事か、皆には考えて欲しい」
ピーターはそう言い残すと、振り返ることなく広場から去って行ったのだった。
足に力が入らない…恐怖や安堵、色々な感情が混ざり合ってしまって、自分が自分で無いような変な気持ちだ。
リアはその場に座り込んでしまった。
あの男…闇の魔法を使えるとは思っていたけど、これ程までとは…
英雄と呼ばれる男が傷だらけになっていた姿…歴史ある王都の広場が悲惨な状況になっている風景を見て、リアは改めてあの男…闇の魔法の危険性を認識したのだった。
あんな抜けているような男が…これ程までの力を持ち、狡猾な頭脳を持っているなんて…なんて恐ろしいの。
煙が晴れた時には既にあの男も、魔獣の姿も無かった…。
これから王国は…
いえ、人間はどうやってあの男と戦えばいいの?
あの男が王国で英雄になろうとしてたって事は人間と仲良くしたかったのかも…
もしかして私は、その道を絶ってしまうような事をしてしまったのでは?…
リアは考える。しかし、自らの脅威…そして目の前の脅威が一時的に去ったことによって極度の緊張から解放され、その場に倒れ込んでしまう。
とにかく生きてるみたいね…良かった、、、のよね?
リアは眠るようにして気を失ったのだった。
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