第3章「黒小人」

クーズー城に皆を残し、俺はゴブ一郎と2人でダークドワーフが住むという森の奥へとやって来た。








ジーバ君も来たがっていたが、なんでもクーズー城に結界を張りたいとかなんとか言っていて忙しそうだったので無理して来なくて良いと城において来た。








なんでも城の位置を誤魔化す為の結果だとか…。








絶対そっちを優先すべきだというのは俺にも分かったので、完成するまでジーバ君には悪いがほぼほぼ軟禁状態で頑張ってもらおうと思う。








そしてシャーリーにはスケルトンの生産に入ってもらっている。





1日におよそ5体くらいが限界らしいが、一度作ってしまえばずーっと使えるらしいのでシャーリーにも是非頑張ってほしいと思う。






労働力は重要だからね。俺が労働しなくて済む為にも…。






ドンファン君はパシ…買い出しに行ってるし、ケル吉たちは放し飼いの為行方不明。ゴブ一郎の部下のゴブリンたちは城の手入れで忙しいという事で、必然的にゴブ一郎と2人で出かけることになったのだ。






「それでゴブ一郎、ここの洞窟にいるの?ダークドワーフって」



「はいリオ様。私の仲間が昔背の低い人間のような生き物をここで見たと言っておりましたので…」





ゴブ一郎の案内でやって来たのは、クーズー城よりも更に森の奥深く、歩くのもままならない深緑の中を進んだ先にたどり着いた洞窟だった。




かなり大きめな入り口で、一寸先は闇になっている。




所々に見たことのない石?鉱物?…が発光していて、非常に幻想的だ。




「じゃあ入っていきますか!」




洞窟は急な勾配のある作りで、縦穴のように伸びている。ちなみにゴブ一郎は光源担当で松明を持ちながら器用に進んでいる。




俺はというと、




こっちはこっちで変な虫がいないかビクビクしながら進むので必死なのだ。






ボロアパートに住んでいたのでよく身の毛のよだつような虫と遭遇したりしていたのだが…あれは無理だ。



人間の手に負えるような奴らじゃないぞあいつらは。



Gを始めカマドーマにムカデにゲジゲジ…あいつらの対処ができる人間は心の底から尊敬していた。




まじで勇者だと思うわ…。





そんな事を思い出しながら進んでいると、突然ゴブ一郎が




「リオ様!!…どうやら罠があるようです」



何やら暗闇を見ながらそんな事を言い出す。



「え?!まじ?!見えてんの??」


「はい。ゴブリンは元々種族として暗闇を見通す力があるのですが…リオ様の力を頂いてからはより一層鮮明に見えようになりまして」



へ、へえ。そうなんだね。



なんで俺は見えないのだろうか…。




まあ、あれか。


子は親を超えてこそなんちゃらとか言うもんね。



うん。みんな優秀で何よりだ。





「これは…隠し扉が開いて、そこから…これですね。剣が飛び出してくるようです」



地面に張り巡らされていたワイヤーのような物を取りながら、ゴブ一郎はトラップの全貌を簡単に解明してしまう。



「ナイス!ゴブ一郎!!流石や!!」



暗くてよく見えないがゴブ一郎の事だ、喜んでくれているだろう。




それにしても…




ダークドワーフ。こんな罠まで作れるとは…ますます欲しいな。いや、絶対に欲しい。





「この調子で頼むゴブ一郎」


「もちろんです」




ゴブ一郎はその後もいくつもの罠を簡単に見破り、解除していく。そのおかげで大変スムーズにダークドワーフの住処らしき人工物に辿り着いた。




「ごめんくださーい!」



利央は間の抜けた声で小さなドアのような物に声を飛ばす。ドアは140センチ程だろうか、人間の子供くらいの大きさだ。





「な!!何者じゃ?!?!」





中から掠れた老人のような声が聞こえてくる。



「回覧板でーす」


「な、何を言っておる?!誰じゃお主は?!…それに罠はどうした?!」


「とにかく開けてくださーい」


「…」



返事が無くなってしまう。



「ゴブ一郎」


「はっ!」



ゴブ一郎がミニ闇属性魔法とでも言おうか、俺の魔法程ではないが闇の球体を作り出してドアへと放つ。






「ひっ!!ひぃぃぃいいい」


「なんじゃあ?!?!」


「何事か?!」




ドアは勢いよく壊れ、中からは複数の声が聞こえてくる。




「お邪魔しまーす!!」



利央たちが中へと入ると…





一目で精巧な作りだとわかる巨大な宮殿のような場所に出た。




「すげぇ…」



利央は思わず声を漏らす。



小学校に上がる前は、よく両親に海外に連れて行ってもらっていたのだが、そこで見た世界遺産に似てる…。壁を彫刻した感じのやつなんだけど…なんだったっけ?





とにかく目を奪われるくらいに圧巻な作りなのだ!




「だ?!誰じゃあお主らは?!」



人間の子供くらいのサイズだが、全体的に肌が黒く、目もかなり細い。そしてなんと言っても体が樽のように膨れている。そんな生き物が目の前にいたのだった。




数は少なく見積もっても30人くらいはいるだろうか…。この場所だけでそれだけいるということは、他にも沢山いそうだな。




利央のニヤニヤは止まらない。



うーん、計画してそれを行動に移す…。




なんて健全な事をしているだ俺は!!毎日無駄に過ごしていたあの頃とは大違いだ!!!




「君たちがダークドワーフかな?」



「そうじゃが…お主らは?」



「俺は魔王をやらせてもらってます利央と言います。こっちが部下のゴブ一郎君」



ゴブ一郎は律儀に頭を下げる。



「魔王?!?!…何を言っておるんじゃお主は」



こうなった場合の解決策も用意してきたのだ。



「これでどう?…魔王にしか使えないらしいよ?」



利央はダークドワーフ達の前で闇属性魔法を発動させる。



すると



「おお!あの漆黒の魔法は…」



「我らの先祖が仕えたという伝説の…」



などと口々に呟いている。





またまた気持ちの良くなる事を言ってくれるなあこの人たちも。



「失礼ですが…魔王様とやら。まさか森の城からお越しになられたのですか?」



「森の城??…もしかして湖に浮かんでる??」


「おお!そうです…そこです!!!」



ダークドワーフ達はなぜか急に興奮し始めた。



「そっ、そうだよ!それがどうかした??」






ダークドワーフ達は互いに顔を見合わせると



「おぉ、まさに言い伝えの通りじゃ」


「ではこの方が…?」


「そうであろうな…」



などと内輪で話し始めてしまった。



「お取り込み中悪いんだけど…今日来たのはね、君たちに僕の城に来てもらいた…」



「行きますぞ!!」


「へ??」



「今あなた様がお住まいになっている城は昔我らの祖先が作った城…前代の魔王様が御隠れになられて以来、我らを保護してくれる方がいなかったので仕方なく我らは生きるために洞窟に逃げ込んだのです」



「ええ?!?!クーズー城って君らが作ったの?!」


「おお、今はクーズー城というお名前になっているのですね…ちなみどのような意味なのですか??」


「え?、いやちょっとそれは…そ、そう!!救いになるーみたいな意味があるのだよ」



「おぉ!!素晴らしい!!!」



じゅ、純粋だこの人たち…心が痛い。




「えーと、それで城に来てくれるので良いんだよね?」




「もちろんです!!そのように"あの方"からも言われておりましたので!」



「あの方??…まあ良いや!よろしくな君たち!!!!」






利央は心の中では安堵していた。



交渉が決裂したら有無を言わさず闇属性魔法で魅力してしまおうと思っていたのだが…どうやらしなくて済むようだ。





喜んでいるダークドワーフ達を、利央は笑顔で眺めるのだった。

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