第21話 危機というのは、なかなか回避できない。
「どうする? あたいはここで決着をつけてもいいと思ってるんだけど?」
「望むところです」
「へえー。やる気だねー」
寺井は言うなり、なぜか、構えの姿勢をやめた。
「でも、今日は一旦これでお開きってことで」
「逃げる気ですか?」
「逃げないよ。だいたい、あたいは君たちと同じこの学校に通っているんだから」
寺井は口を動かしつつ、屋上のコンクリート床へ親指を指し示す。
「だから、今しなくても、また決着はつけられるってこと。時間に限りはあるけどねー。後、彼女のこともね」
「綾乃に何かする気なのか?」
「今のところは、何もしないよ」
答える寺井は、浅井の方へ視線を向ける。
「しようと思えば、彼女が阻止すると思うからねー。そのための監視みたいなもんでしょ?」
「答える気はありません」
「頑固だなー」
寺井は言うなり、俺の方へ目をやる。
「後は君次第ってところかもしれないねー」
「俺次第?」
「そう。彼女の監視を止めさせるとかね」
「余計なことを言わないでください」
「怖いねー。まあ、そんなところで、今日はこれにて。ああ、君の焼きそばパンうまかったよ。今度、あたいも買ってみようかなー」
寺井は口にすると、急に足を蹴り上げて、屋上にある金網を超えるぐらいのジャンプをした。で、下へ真っ逆さまに落ちていき。
「えっ!?」
俺は死ぬのではないかと感じ、慌てて見に行こうと駆け寄る。
「心配は不要です」
振り返れば、浅井は構えることをやめ、ため息をこぼしていた。
「あれは人間と違って、そう簡単に死ぬようなものじゃないです」
「そうなのか?」
俺は問い返しつつ、地面で寺井が倒れているのではないかと思ってしまう。
「というより、死んでくれた方が好都合です」
「本当に敵なんだな」
「敵です」
浅井は短く強く言い切った。
「これからは色々と大変ですね」
「大変って、さっきの奴とかか?」
「それだけではないです」
浅井は握りこぶしを作るなり、歯を食いしばるような表情をする。
俺は彼女の反応が気になり、近くに歩み寄る。
「もしかしてだけどさ」
「はい」
「あいつが言ってたことで、本当のことがあったんじゃないのか?」
「何がですか?」
「例えばさ……」
俺は髪を掻きつつ、頭に浮かんだものを話すことにした。
「『このままだと、数週間後に、この惑星を含む宇宙全体が消滅する』とか」
そばにいる浅井から返事はなかった。
俺はわずかに期待していた可能性を打ち砕かれた気持ちになった。「違います」と首を横に振ってくれることに。
「そうか」
「黙っていたわけではないです」
「なら、あいつの言ってたみたいに、綾乃の自殺によって、リセットされるとかさ」
「そんなこと、起きるわけがないです」
浅井は冷たく言い放つ。
「それでしたら、わたしは既に試しています」
「じゃあ、あいつがしたいのはやっぱり」
「単なる自殺行為、それだけです」
浅井は俯き加減になると、俺の方から顔を逸らした。
「せめて、舘林さんを監視して、宇宙消滅の危機を少しでも防ごうとは思っています。ですけど、それだけではダメだというのはわかっています。いえ、わかっていました……」
最後は掠れ気味な声になり、気づけば、浅井は俺の方から離れるように歩を進ませていた。
「何か、俺に手伝えることはないのか?」
俺が呼びかけると、浅井は足を止めるなり、振り返ってきた。
「今は、ないです」
浅井は口にするなり、場を立ち去っていった。途中いくつもある水たまりを避けないで突き進みつつ。
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