第34話 わたしたちの運命

「なぜ、あなたがそんなことをしているのですか」

「それはねー、彼に頼まれたからかなー」

「最低です」

 浅井は俺の方へ鋭い眼差しを送ってくるも、すぐ前にいる寺井と睨み合う。

「ここでけりをつけた方がいいかもしれませんね」

「そうだねー。実はあたいも同じことを思っていたんだよね」

 浅井と寺井はお互いに構える姿勢を取る。

「大変そうね」

 いつの間にか、佐々倉が俺のそばまで歩み寄ってきていた。

「そうだな。ここはひとつ、二人がぶつかっている間に逃げるっていう手はあるな」

「そうね」

 佐々倉は言うなり、おもむろに俺の手を握ってくる。

「佐々倉さん?」

「でも、ここで逃げるのは卑怯と思うわね」

「卑怯か……。だから、この場にとどまるってことか?」

「そうね。けど、ひとりだけでは心細いから、長倉くんも残ってほしいわね」

「だから、その、俺の手を?」

「そうね。後は、不安を和らげるためかしら? けど、そういうのは気休めにしかならないかもしれないわね」

 淡々と口にする佐々倉だが、伝わってくる手の感触は震えており、本当に不安を感じているようだ。俺だって、寺井が負けたりしたら、浅井に殺されるかもしれず、怖い。

「ひとりだけなら、怖いかもしれないけどさ、佐々倉さんと二人でいれば、まだマシかもしれないな」

「わたしのことをそれぐらいの人間としてしか、見てないのね」

「いや、そういうことじゃなくてさ……」

「わかってるわ。だって、長倉くんは一度、わたしに告白してきたのだから」

 佐々倉は笑みを浮かべると、対峙している浅井と寺井の方へ視線を動かす。

「どちらにしても、わたしたちの運命はあの二人がどうなるかにかかってるということね」

「ああ」

 俺はうなずき、佐々倉の手を強く掴む。

 佐々倉はそれに応えるかのように、俺の手を握り返してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る