第33話 張り詰めた空気
「ここか……」
「その言い方は、何となく予想がついてたってことだね」
寺井が楽しげな表情を浮かべてくるも、俺はただ立ち止まり、辺りを見渡すだけだった。
学校近くの河原。
昨日の夕暮れ時と違い、昇っている日の光に照らされていた。場所によっては、目を覆いたくなるほど眩しいかもしれない。
途中、ジョギングだろうか、スポーツウェアの格好をした男性が走り去っていく。河面のそばでは、釣りをしている人が何人かいた。
「のどかだねー」
「ああ」
「それじゃあ、行こっか?」
「ここじゃないのか?」
「ここではあるけど、細かく言えば、あそこだよね」
寺井は言うなり、とある方を指差す。
視線を向ければ。
電車が時折走っていく鉄橋の方だった。
「あそこの下にいるのか?」
「おそらくね。行ってみないとわからないけど」
「いなかったら、他に当てがあるのか?」
「今のところはないね。まあ、ひとまずは行ってみないと」
寺井は口にすると、俺の手首を掴み、鉄橋の方へ足を動かしていく。
「もう、いいだろ?」
「何が?」
「掴まなくてもさ」
「まあまあ。気にしない、気にしない」
寺井は意に介そうとせず、そのまま歩き続ける。
俺はため息をこぼし、ひとまず、寺井についていくかと諦めることにした。
いないんじゃないかという俺の不安は、場に着くなり、すぐ消え失せた。
太陽の光が遮られた鉄橋の下。
先ほどまで学校にいた浅井と佐々倉の姿が視界に映った。
お互いに距離を取って、無言を貫いているという、張り詰めた空気が漂っている。
だが、寺井は構わずに二人の間に入っていく。
「はい、ストップストップー」
「あなたですか」
「初めて見る顔ね」
浅井は睨みつけ、佐々倉は淡々とした表情で視線を動かしてくる。
で、俺は三人がいる光景を遠巻きに眺めようとして。
「あなたもですか」
「長倉くんも来たのね」
浅井と佐々倉は俺の方へ目をやるなり、各々言葉をこぼしてきた。
俺は逃げるわけにもいかず、寺井に遅れて歩み寄る。
「お前は佐々倉さんと会っていたんだな」
「それがどうしたのですか」
「いや、何でもない」
俺は続けて、浅井から佐々倉に視線を移した。
「彼女に呼び出されて、ここまで来たのか?」
「そうね。そう言う長倉くんは、彼女に無理やり連れられてやってきた感じみたいね」
「そう、だな」
「彼女、わたしのことを殺したいみたいね」
佐々倉は平然とした調子で声をこぼす。
「怖くないのか?」
「怖いわね」
佐々倉は左右の手で両腕をさすり、あたかも身震いするかのような動きをした。だが、俺からはわざとらしくやっているようにしか見えない。
「もしかして、そんなわたしを長倉くんは助けにやってきたのかしら?」
「それはまあ、そうだな」
「わたしの邪魔をしに来たというわけですか」
振り向けば、浅井が俺の方へ鋭い眼差しを送ってきた。と、それを遮るように、間に寺井が割って入ってくる。
「はいはーい。君はあたいが相手するから」
「あなたですか」
浅井の声は冷たかった。
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