第15話 雨というのは、どんよりとした気持ちになる。
翌日の朝は雨で、俺は自然とどんよりした気持ちになっていた。
外に出て、傘を差しつつ、学校へ向かう足取りは重い。
途中、クラスメイトの黒木に会ってからも、俺のマイナスな雰囲気は変わらなかった。
「朝から元気なさそうだね」
「まあな」
「何かあった?」
「いや、何もない」
「もしかして、昨日、佐々倉さんに怒られたこと?」
「いや、そうじゃない」
俺はかぶりを振りつつ、そんなことがあったなと今さらのように思い出す。
「黒木さ」
「何?」
「俺、佐々倉さんにフラれたんだよな」
「へえー、そうなんだって、えっ? 告白したの?」
黒木は驚いたのか、俺の傘まで顔を覗かせてきた。
「昨日の放課後にな」
「理由は?」
「特に」
「それは、残念だったね」
黒木は顔を戻して言うなり、俺の肩を軽く叩いた。
「それで、これからどうするの?」
「どうするも何も、まあ、諦めるしかないよな」
「そっか……。自分なら、もうちょっと粘ったりするかな」
「粘る?」
「うん。一回フラれたら、はい、そこでおしまいっていうのは、ちょっとね。多分、自分の場合は諦めが悪いタイプかもしれない」
黒木は口元を綻ばせると、頬のあたりを指で掻いた。
「何はともあれ、自分の意見としては、もうちょっとあがいてみてもいいんじゃないかなって」
「あがいてみるか……」
「見たところ、充は佐々倉さんのことを諦めきれてなさそうだしね」
「そう見えるか?」
「充分見える」
はっきりとした口調で答える黒木。
まあ、図星なわけだが。
「そういえば、佐々倉さんって、どこ中だったか知ってるか?」
「中学校?」
「ああ」
「そういえば、知らないね」
「黒木って、確か、二中だったよな?」
「そうだね。同じ第二中学は他にもけっこういるんだけど、佐々倉さんは違うかな。名前すら聞いたことないから」
「俺も同じだな。三中の時にはいなかったからな」
「というより、いたら、もっと早く好きになっていたかもね」
「かもな」
俺は返事するなり、黒木には、佐々倉のことを教えていたことに気づいた。ちなみに、二中は第二中学校、三中は第三中学校の略。地元の中学校名で、第一中学校もあるが、二中と三中が今の高校で生徒の多数派だ。通学地域として、近いところにあるからかもしれない。
「まさかだけどさ、市外からか?」
「どうなんだろうね。うちみたいな偏差値そこそこの高校なら、他にいくらでもあるんだけど」
「何にせよ、後は本人に聞いてみないとわからないってわけか……」
「何で、佐々倉さんの出身中学なんて知りたいの? 別にそういうことを知るよりも、他に佐々倉さんと仲良くなる方法はあると思うけど」
「まあ、ちょっと、色々な」
「ふーん」
黒木は興味深げな反応を示したが、突っ込んで聞こうとはしなかった。おそらく、友人として、気を使ってくれたのだろう。
佐々倉の兄は一年前に亡くなったのだから、当時なら、彼女は中学三年のはずだ。なので、同じ中学校の出身者に会えば、詳しいことがわかるかもと思った。だが、そもそも、どこの中学校か、まずは調べるところから始めないといけないようだ。佐々倉本人に尋ねれば早いのだが、いきなり死んだ兄についての質問は酷すぎるはずだ。なので、遠回りでも、まずは知ってそうな人から、話を聞こうと考えていた。
「とりあえず、自分は陰ながら応援するよ」
「ありがとな」
「どういたしまして」
軽く頭を下げる黒木に対して、片手を上げて応える俺。
止みそうにない雨の中を並んで歩きつつも、俺はわずかながら、気持ちが上向いてきた。
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