第9話 すぐに逃げ去ることはできないはずです。

 佐々倉から受け取った鍵で教室を閉め、職員室に戻した後、俺と浅井は学校を出た。

「舘林さんはどうしたのですか?」

「特に何も言ってないから、先に帰ってるだろうな。校門の前にもいなかったしな」

 俺は口にするなり、通学路の住宅街を進んでいく。

「そうですか」

「待ってもらった方がよかったって言いたいのか?」

「そうですね。そうしたら、好感度も多少上がったはずです」

「ゲームみたいなことを言うんだな……」

「そうですか?」

「ああ。まあ、現実はゲームみたいに上手くいかないけどさ」

「でも、舘林さんがあなたに告白することは確かです」

「なら、何で今さら好感度のことなんて、言ってくるんだ?」

「それは、告白というイベントをより確実に起こしてほしいからです」

「今度はイベントときたか……」

 俺は反応に困り、夕暮れ時の空を見上げてしまう。

「それぐらいさ、俺の気持ちは綾乃に向くようなほど、割り切ることができないんだよな」

「それは、困りましたね」

「ああ、困るよな」

「宇宙消滅の危機です」

「わかってる」

 返事する俺は、どうにかならないものかと頭を巡らそうとする。

「ところで」

「何だ?」

「先ほどから、誰かついてきています」

「誰か?」

 俺の問いかけに、浅井は「はい」と口にするとともに、首を縦に振る。

 振り返ってみるが、ついてきそうな人影はない。単なる住宅街の間にある舗道が、そばの十字路から奥まで続いているだけだ。

「気のせいとかじゃないのか?」

「気のせいではありません」

 浅井も俺と同じ方へ顔を向ける。

「近くの十字路に隠れています」

「そうなのか?」

「そうです」

 再び首を縦に振る浅井。

 まるで超能力者だなと言いかけたところで、彼女が宇宙人であることを思い出した。得体の知れない存在ならば、気づいても、おかしくはないかもしれない。

 俺は浅井の言葉を信じて、ゆっくりと十字路の方へ歩を進め。

 後数メートルといったところで、誰かの駆け足で去ろうとする音が聞こえてきた。

「本当かよ!」

 俺は口にしつつ、すぐに後を追おうと、十字路を曲がる。

 だが、走っている人はどこにもいなく。

「まだです」

 自然と立ち止まっていた俺の横に、浅井が遅れてやってきていた。

「どこかにいるはずです。この惑星の、人間が、今の短い時間でいなくなるとは考えにくいです」

「そうだな。どこかに隠れてるはずだよな」

 俺は口にするなり、すぐに怪しいと思われる場所に目星をつけた。

 そこへ息や足音を殺して、相手が逃げる隙を与えない距離まで詰め寄る。

 で、俺はそばにあった電柱の後ろを覗き込んだ。

 視界に飛び込んできたのは。

 目を見開いて、怯えたような表情をした幼馴染、綾乃の姿だった。

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