第20話 ウソはウソです。

「あれが言っていることはウソです」

「ウソって、どこがウソなんだ?」

「舘林さんがもう一度過去に戻れば、リセットされるというところです」

 浅井は淡々と口を動かす。

「さっきから、聞いてれば、あたいのこと、『あれ』呼ばわりって、ちょっとひどくない?」

 見れば、正面を移している寺井は苛立ったような顔をしていた。

「いい加減、あたいも怒るよ?」

「勝手に怒ってもらっても結構です」

「言うねえー」

 寺井は握りこぶしを作り、指の骨を鳴らす。

「リセットされないのか?」

「あたいのことを信じないってことだね? その言い方は?」

「いや、そういう極端なことは思ってるわけじゃなくてさ……」

「もう、これは穏便に事を済ませるわけにはいかなそうだねー」

「来ます」

 浅井のつぶやきに、俺は「えっ」と反応を返そうとしたところで。

 浅井は躊躇せずに、寺井に突っ込んでいく。

 続けて、俺の視界では、二人ぶつかり合う光景が繰り広げられていた。

 お互いとも、こぶしで殴ろうとしては、相手の攻撃を防いだりと忙しない。しかも、ほぼ、数十センチでの接近戦で、どちらが先にダメージを受けるかわからなかった。とまあ、俺は何もできず、ただ、茫然と眺めていることしかできなかったのだ。

 どれくらい時間が経ったのだろう、浅井と寺井は再び距離を取るも、構えたままだった。

「やるねえー。正直、ここまで対等にできるとは思っていなかったよー」

「わたしを舐めないでください」

 両者の声音からは息を切らしているような感じはまったくない。さすが、宇宙人というのは、あまりにも偏見すぎる感想だろうか。

「あたいはね、この宇宙をリセットしたいんだよねー」

「それは単なる自殺行為です」

「この惑星の人間でも同じようなことをしてる連中がいるんでしょ? なんだっけ? 自爆テロとかって言うんだっけ?」

「それは、この惑星の人間でも、特殊な部類に入る人間です」

「そうやって、彼らは異端みたいな考えはよくないよー」

「あなたみたいな考えの持ち主は異常です」

 浅井の言葉から、寺井のことを犯罪者か何かみたいな存在に捉えているようだ。確かに、急に現れては、俺の昼食を盗み、飲み食いしているし。

「もしかして、お前は宇宙を駆け巡るテロリストなのか?」

「かっこいいねー、それ」

「あなたは黙っていてください」

 浅井に強い語気で言われ、俺は、「悪い」と口にする。どうも浅井は、寺井のことを本当に敵として嫌っているようだ。

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