第5話 宇宙消滅の危機となると、話は別だ。

「じゃあ、馬鹿正直に、『これ以上、過去に戻るのはやめてくれ。宇宙が消滅してしまう』って、言えばいいのか?」

「それが一番手っ取り早いですが、舘林さんがそれを聞いたら、混乱すると思います」

「だよな」

 俺はズボンのポケットからスマホを取り出し、まとめサイトやSNSを適当にチェックする。周りに先生はおらず、近くに現れた時点で、隠すようにする。校内では、使用禁止だからだ。

「結局は、誰かしらが何かを諦めるしかないんだろうな……」

「どういうことですか?」

「つまりだ、綾乃が俺のことを諦めるか、はたまた、俺が佐々倉さんのことを諦めるかだ」

「でも、諦めるというのはそう簡単にできることなのですか? 先ほど、『人の気持ちってさ、そう簡単に変えることってできないよな』と言っていたばかりです」

「まあな。簡単にはできないよな」

 俺はスマホの画面から浅井の方へ視線を変えた。

「ここは、俺が諦めるしかないよな」

「でも、舘林さんは、あなたが佐々倉さんのことを諦めきれないとどこかで気づいてしまうかもしれません。そしたら……」

「なら、諦めきれないような状況を作るしかないだろ?」

 俺は言うなり、スマホをしまった。

「どういうことですか?」

「これってさ、宇宙消滅の危機なんだよな?」

「そうですね」

「なら、何をしても、仕方ないってことだよな?」

「あなたは、何を考えているのですか?」

「何って、まあ、宇宙を救う方法だよ」

 返事する俺は、いつの間にか身震いし始めていた。当たり前だ。俺が頭に浮かんだやり方は、とてもじゃないが、容易くできるものではない。

 けど、宇宙消滅の危機となると、話は別だ。

 俺は意を決すると、握りこぶしを作り、体の震えを無理やり抑え込んだ。

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