第13話 諦めきれない気持ち(その2)

「ひとまずは、危機を回避できて何よりです」

「まあ、そうだな」

「これで後は、何もなければいいのですが……」

「あのさあ、ちょっといいか?」

「はい」

 うなずく浅井。

 俺は頭を掻きつつ、口を開く。

「何で、俺の家にいるんだ?」

 今、俺と浅井は、自宅のリビングにあるソファに座り、斜め向かい合っている。前にはテレビが置かれているも、電源はつけていない。

「おかしいですか?」

「お前は、自分の家がないのか?」

「いえ、あります」

「なら、何でここにいるんだ?」

「とりあえず、あなたと話したかったからです」

「俺とか?」

「はい」

 浅井の淡々とした表情に、俺は何か変な意図があるのではないかと勘繰りたくなる。

 家には今、誰もいない。共働きの両親はまだ会社のはずだ。どちらも帰りが遅くなると聞いているので、今日の夕飯は俺が作ることになっていた。

「まさかだけどさ、ついでに夕飯を頂こうとか思ってないよな?」

「どうして、そう思うのですか?」

「何となくだ」

「それは心外です」

 不満げに声を漏らす浅井に対して、俺はソファに深く体を預けた。

「で、俺と話をしたいのはそれだけか?」

「いえ、そうではないです」

「じゃあ、他に話足りないこととかがあるのか?」

「危機は回避されましたが、まだ、油断はできないということです」

「それって、あれか? 綾乃の気が変わって、自殺とかして、また、過去に戻ったりするかもしれないってことか?」

「そうですね」

 首を縦に振る浅井。

 先ほど綾乃は、同じ時を繰り返さないと約束をしてくれたはずだ。

「綾乃を信用してないのか?」

「そういうわけではありません。しかし、人間は時として、予期しないことをします」

「まあ、それは、人間だからな……」

 浅井の言葉に、俺は抗うことができなかった。

 確かに、綾乃が俺のことをやっぱり諦めきれないとか言い出して、過去に戻るかもしれない。そしたら、時空の歪みとかで、宇宙は消滅してしまうかもしれない。

「それは、まずいよな……」

「まずいです」

「けどさ、そしたら、どうすればいいんだ?」

「そうですね。とりあえず、舘林さんを四六時中監視しないといけません」

「一日中ってことか?」

「そうです。二十四時間三百六十五日です」

 浅井は真面目そうな顔で口にした。

 宇宙人の監視。

 もちろん、本人は気づかれないようにやるだろう。

「当たり前だろうけどさ、その場合、俺は綾乃にずっと黙ってないといけないんだよな?」

「はい」

「辛いな」

「黙っていることがですか?」

「ああ。というより、隠し通せるかどうか、自信がないな」

「そうですか。なら、わたしの存在をこの惑星から完全抹消します」

「完全抹消?」

「はい。そうすることにより、あなたは元より、舘林さんや佐々倉さん、他のクラスメイトらからも、わたしの存在自体を完全に忘れます」

「それって、クラスからも、『浅井麗奈』という生徒がいなくなるってことか?」

「ですね」

 うなずく浅井。本人は大したことがないように話すが、俺にとっては、違う。

「それはまた、気持ち悪いな」

「気持ち悪いですか?」

「ああ。だってさ、俺や綾乃、佐々倉さんがお前のことを忘れていてもさ、実際はこの地球にいて、綾乃のことを監視し続けているんだろ?」

「はい」

「それは何かさ……」

「でも、そうしないと、あなたが舘林さんにわたしが監視していることをばらす危険があります」

「それは否定できないな」

 俺はため息をつき、何かいい策はないかと頭をひねる。

「そしたら、あれか……。俺が本気で綾乃と付き合うしかないのか」

「でも、それは難しいと思っています」

「まあな」

「佐々倉さんのこと、まだ諦めきれてないように見えます」

「痛いところを突くよな」

「事実だと思いますから」

 浅井の声に、俺は乾いた笑いを浮かべてしまう。

 俺はフラれた佐々倉に対して、想いを断ち切れていなかった。

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