第26話 何かいい策はないのだろうか。

「お帰りなさい」

 家に帰ると、浅井が制服姿でリビングのソファに座っていた。

「どうやって入った?」

「複製した鍵で開けました。この惑星のセキュリティーは色々と脆弱性があります」

 浅井の言葉に、俺は手のひらを額に乗せ、相手が宇宙人だったことを思い出した。

「まあ、いいか……」

 俺は咎める気が起きずに、学校の鞄を二階にある自分の部屋へ置いてくる。

 リビングに戻ると、浅井は俺の方へ視線を移してきた。

「何か言いたそうな顔をしています」

「わかるか?」

「何となくですが」

 浅井の声に、俺はさて、どう話せばいいか頭を巡らしつつ、別のソファに腰を降ろす。

「一年前とかに戻ることはできないのか?」

「できません」

 浅井は間を置かずに返事をすると、メガネをかけ直した。

「佐々倉さんのことですか?」

「ああ」

「その話からですと、佐々倉さんの兄を助けたいということですね」

「だな」

「して、どうするのですか?」

「どうするってさ、そしたら、佐々倉さんは救われる」

「救われるですか……」

 浅井は口にするなり、ため息をこぼした。

「多分、それは難しいと思います」

「難しいって何がだ?」

「佐々倉さんの兄さんを助けることがです」

 はっきりと答える浅井。

 俺は髪を掻くなり、目を合わせる。

「それはあれか? その場で助けても、佐々倉さんの兄は別のところで死ぬ。というより、死という運命には抗えないとかって奴か?」

「そうです」

「なら、綾乃が俺のことを諦めきれずに、また告白してきて、ダメで、それで、死んで、過去を繰り返すのも変わらないんじゃないのか?」

「それは、そうかもしれないです」

 うなずく浅井。

「だったら、綾乃の監視は無駄じゃないのか?」

「今はこれしかないということです」

 浅井は左右のこぶしを握り締め、悔しそうな表情をした。

「正直、今のところ、解決策はないかもしれません」

「それって、『数週間後に、この惑星を含む宇宙全体が消滅する』っていうことに対する解決策がないってことか?」

「はい」

 浅井の言葉に、俺はどう反応をすればいいのかわからなくなる。

 しかも、佐々倉の兄を一回助けようにも、別のことで死んでしまうかもしれない。

 何だこれ。どちらも明るい未来みたいなものを迎えることができないってことか。

「俺は、何で、一週間前に戻ってきたんだ?」

「それは、あなたに、舘林さんが何十回も同じ時を繰り返すことを止めさせるためです」

「けどさ、『数週間後に、この惑星を含む宇宙全体が消滅する』のは、変わらないんじゃないのか? 俺が何をしてもさ……」

「もしかしたらと思って考えていたのですが、ダメだったみたいです」

 浅井の声には力がなく、諦めの感情が含まれているようだった。

「まさか、諦めるのか?」

「諦めるというよりは、舘林さんを監視している間に、何かいい策はないかと時間稼ぎをしているといったところです」

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