第22話 冗談な話と真面目な話
放課後。
俺は黒木とともに、駅前のミックにいた。ミックとは、ハンバーガーやフライドポテトを出すファーストフード店のことだ。
「後、数週間か……」
「何が数週間?」
「いや、何でもない」
黒木にかぶりを振る俺は、テーブルにあるフライドポテトを手で摘み、口に運んだ。
「何でもないっていうわけではなさそうだけど?」
「鋭いな」
「まあ、数ヶ月とはいえ、充とそれなりに時間は過ごしてきたからね」
「そうか」
「まあ、自分が相談に乗れるようなことであれば、いいんだけどね」
黒木は言うなり、紙コップのブラックコーヒーを飲む。砂糖やミルクもないのに、よく飲めるなと俺は感じつつ、じっと見てしまう。
「どうしたの? 何かついてる?」
「いや、別に」
「そういえば、佐々倉さんの出身中学はわかったの?」
「それはまだだ」
「本人には聞いてないんだ」
「そんなことさ、唐突に聞けるわけないだろ?」
「まあ、フラれた相手だからね」
「それを言うな」
「ごめんごめん」
黒木は申し訳なさそうに声をこぼすと、フライドポテトを食べる。
「でも、今のままだと、何も進展しなさそうだね」
「進展も何も、一度フラれてるからな。後退したままと言ったところだな」
「そこは何とか前進させたいところだけど……」
黒木は両腕を組むなり、「うーん」と唸り始めた。
「もう一度告白するとか」
「そんなの、さらに後退するだけだろ」
「でも、今度は少し考えてくれるかもしれない」
「その根拠は?」
「根拠はないよ。というより、ただ単に告白するだけなら、同じようにまた断られるだけだと思うよ」
「なら、何かあるのか? いい方法とかさ」
「充が佐々倉さんにいいところを見せるとか」
「いいところって、あれか、車に跳ねられそうになるところを助けるとかか?」
「それはありがち過ぎて、つまらないような」
「つまらないって問題か?」
「そうだね。というより、下手すれば、充が死んでしまうかもしれない」
「それはまずいだろ」
「だね」
黒木の返事から、ただ単に適当なことを口にしてみただけらしい。時間を潰すだけのくだらない雑談だ。
「で、佐々倉さんのことだけど」
「まだ何か言いたいのか?」
「うん。まあ、ここからは真面目な話なんだけど」
黒木は真っすぐな眼差しを俺に送ってくる。
「佐々倉さん、夕方になると、学校近くの河原にひとりでいることが多いんだって」
「誰情報だそれ?」
「山本から」
「山本って、同じクラスのか?」
「うん。ほら、彼って、ワンダーフォーゲル部で、放課後はいつも体力を鍛えるためにそこらへんを走っているんだって」
「ワンダーフォーゲル部?」
「山を登ったりとか、そういう部らしいよ。まあ、山岳部とはちょっと意味合いが違うみたいだけど」
「って、うちって、そんな部があったのか」
「まあね。で、その山本が普段走るコースで、学校近くの河原を横切るところがあるんだけど、そこによく、佐々倉さんがいるんだって」
黒木の口振りに冗談っぽさはなかった。どうやら、本当に聞いてきた話のようだ。
「だから、今から行ってみれば?」
「黒木は、どうするんだ?」
「自分は遠慮しとくよ」
手を横に振り、笑みをこぼす黒木。
「自分がいたら、邪魔になるしね」
「変な遠慮はしなくてもいいんだけどな」
「変な遠慮じゃないよ。だって、充は佐々倉さんのこと、諦めてないんでしょ?」
黒木に問いかけられ、戸惑ってしまう俺。まあ、答えは決まっているのだが。
「さて」
黒木はブラックコーヒーの紙コップを飲み干すと、席から立ち上がった。
「後のポテトはあげるよ」
「帰るのか?」
「うん。明日ある数学の宿題をやらないといけないからね」
学校の鞄を肩に提げ、黒木は空の紙コップを途中のごみ箱に捨て、店内からいなくなった。
残された俺はひとり、フライドポテトを摘みつつ、オレンジジュースを口につけ。
「って、宿題とかあったのか。まあ、後数週間で宇宙全体が消滅とか言われると、そういうこともどうでもいいように感じてくるな」
俺はため息をつきつつ、フライドポテトがなくなったら、店を出るかと意を決した。
その後に向かう先は家でなく、学校近くの河原だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます