第19話 騙されないでください。

「監視をやめさせて、綾乃に何かするんじゃないのか?」

「警戒するねー。まあ、そう言われるのは想定内だったけど」

 寺井は笑みを浮かべると、浅井と俺の周りを歩き始めた。

「そもそも、君は不思議に思ったことない? 今の時間は前に経験した過去だっていうのに」

「それが、どうかしたって言うのか?」

「まだ気づかないの? ほら、前に経験したことあるなら、何気ないクラスメイトとの会話とか、聞いたことある内容になってると思わない?」

「それは、まあ、確かに……」

「でも、そういうこと、あまりないと、君は既に気づいてるはず。あるとしたら、授業の内容ぐらいとか」

「まあ、それは……」

「騙されないでください」

 不意に、浅井が言葉を挟んでくる。

「あれはあなたを惑わそうとしているだけです。そもそも、わたしとこうして知り合って、一緒に過ごすこと自体、過去の同じ時間では経験してないはずです。そういうことがあると、他のことも色々と変わったりするものです」

「そうだねー。君と彼女が知り合ってる自体、大きな変化みたいなものだから、周りの出来事とかも色々と変わってしまうのはしょうがないことかもしれないねー。でも」

 寺井はおもむろに足を止めると、俺と目を合わせてきた。

「そもそも、過去に戻ってきたのは、舘林さんが同じ時を何十回も繰り返すことを止めるためなんだよね?」

「何で、そのことを知ってるんだ?」

「何でって、それはまあ、ずっと君たちのことを見ていたからねー」

「やはり、監視していましたか」

「おや? その言い方はあたかも、はじめから気づいてました的な感じだねー」

「確信は持てていなかったのですが、何となく、そうかもしれないとは思っていました」

「怖いねー。だったら、あたいがヘマでもしたら、すぐ彼女にバレていたかもしれないねー」

 寺井は言うなり、再び俺らの周りを歩き始める。

「とまあ、君たちは過去にこうして戻ってきたわけだけど、色々と出来事が変わっているってことは、時空もその度ごとに歪んでるってことになる」

「そんなの出まかせです」

「出まかせじゃないよ? あたいは少なくとも、このままだと、数週間後に、この惑星を含む宇宙全体が消滅すると思っているんだけどねー」

「数週間後?」

 寺井の声を、俺は聞き流すことができなかった。

「どういうことだ?」

「あれは出まかせです。信じないでください」

「けどさ、後数週間でって、俺たちがこうして過去に戻ってきたこと自体、綾乃が同じ時を繰り返すことと同じことをしていたってことなのか?」

「落ち着いてください。あれはそういう風に言っているだけです」

「けどさ、実際、前に経験した同じ日時と出来事が違ってることは確かだろ?」

「それは、否定できません」

 弱々しい語気で答える浅井。ならば、俺らがやっていることも、宇宙消滅に一役買おうとしているのではないのか。

「あたいの結論としては、舘林さんを止めようが止めまいが、君たちが過去にやってきている時点で、宇宙消滅へのカウントダウンは着実に進んでるっていうことなんだよねー」

「俺たちのせいでっていうことなのか?」

「まあまあ。そう、自分を責めるようなことはネガティブ過ぎて、女の子にモテないよー」

 陽気そうな表情で、俺の方へ突き出した片手を振る寺井。

「だからこそ、彼女が行っている舘林さんの監視を止めるのが重要っていう話になるんだよねー」

「けどさ、今さら綾乃の監視をやめても、意味がないんじゃ……」

「それはどうかなー」

 寺井は人差し指を出し、左右に振る。

「あたいの予想では、彼女の監視さえなくなれば、舘林さんは自殺して、また、同じ時に戻ると思ってるんだよねー」

「そんなことしたら、なおさら、宇宙消滅へのカウントダウンが早まるだけなんじゃ……」

「それが違うんだなー」

 口にする寺井は、おもむろに俺らの方へ近づいてくる。同時に、前にいる浅井が両手を伸ばして、俺を守ろうとする。

「過保護過ぎるのはどうかと思うけどねー」

「あなたにどう思われようと関係ありません」

 二、三メートルぐらいの距離を保ち、向かい合う浅井と寺井。

「舘林さんがもう一度同じ時に戻れば、君と彼女が違う時を過ごしている今の状態をリセットできるかもしれない」

「そんな都合のいいことなんて、できません」

「けど、今の状態が続いたら、確実に宇宙は消滅するよ? 時空がさらに歪んで」

「なあ」

 俺はおもむろに、浅井へ問いかけた。

「何ですか?」

「俺はどうすればいいんだ?」

「惑わされないでください。今のままが最善の策です。あれが言っていることはウソが混じっています」

「ウソ?」

 俺の声に、浅井は首を縦に振る。

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