第8話 ひとまずは落ち着こう。

「おもしろいことを言うわね」

 返ってきた声に目を開ければ、佐々倉は笑っていた。

「まさか、長倉くんから告白を受けるなんて、思ってもみなかったわ」

「それは、断るという意味ですか?」

「おい、浅井」

「あなたは黙っていてください」

 浅井に制せられ、俺は口を噤んだ。

「浅井さんは、長倉くんとはどういう関係なのかしら?」

「この惑星の世界で言えば、わたしは彼のビジネスパートナーです」

「浅井さんもおもしろいことを言うわね」

「わたしは別に、おもしろいことを言ったつもりはありません」

 浅井の淡々とした答えに、佐々倉は笑うことをやめた。

「なら、長倉くんのビジネスパートナーさん。どうして、長倉くんの告白に対するわたしの返事を知りたいのかしら?」

「その返事次第で、わたしのやることが変わるからです」

 浅井は言うなり、つけていたメガネをかけ直した。

「それなら、早く返事した方がいいかもしれないわね」

 佐々倉は俺の方へ視線をやるなり。

「ごめんなさい」

 と答えてきた。

 つまりは、俺は早々にフラれたというわけだ。

「ドンマイです」

「まあ、いい返事があるとは思ってなかったけどさ……。実際フラれるとなると、辛いな……」

「悲しんでるところ悪いけど、わたしはもう、帰ってもいいのかしら?」

「大丈夫です」

 浅井が言うと、佐々倉は教室を立ち去っていってしまった。何というか、あっさりし過ぎている。

 俺ががっくりしていると、浅井が近寄ってきて、肩を軽く叩いてきた。

「ドンマイです」

「さっきも聞いたな。そのセリフ」

「こういう時にはこの言葉をかけるのが、この惑星では相応しいと思いました」

「この惑星というよりは、この国の言語ならな」

 俺は声をこぼすなり、近くの席にある椅子へ座る。

「とりあえず、佐々倉さんに気持ちを伝えることはできたな」

「これで、すっきりしましたか?」

「いや、すっきりというかさ、けっこうショックを受けてるな。想像してたよりもきつい」

 俺はわざとらしく、胸のあたりに手を当てる。別に痛いわけではないが、内心としては苦しさを感じていた。

「ひとまずは、佐々倉さんを殺さずに済んでよかったということになりますか?」

「まあな」

 俺は口にするなり、ため息を漏らす。

 俺が考えた、佐々倉を諦める方法。それは、彼女を殺すことだった。犯罪であるとわかってはいるものの、宇宙消滅の危機ならば、話は別だ。人間ひとりの命に対する代償としては仕方ないと割り切れるだろう。

 と、俺は単純に受け入れたかったが、やはり抵抗はあった。

 結局は浅井の協力と説得を受け、俺は自分が思いついた案を実行へ移すことにした。

 ただ、殺さない条件もつけた。先ほど現実に起きたフラれるという結果だ。

 好きな相手にフラれるとなれば、俺は綾乃の告白を快諾という予想をしていたのだ。

「どうも、綾乃の告白を受けても、すぐにオッケーというわけにはいかない心境だな」

「時間がかかりそうですか?」

「時間か……。そうだな、どれくらいかかるかわからないけどさ……」

「舘林さんがあなたに告白してくるのは明後日です」

「早いな」

「ちなみに、そこでいい返事をしないとまずいです」

「まずいって、返事を保留にしてもダメってことか?」

「そうですね。そのような反応でも、舘林さんは同じ時を繰り返すために、自殺します」

 浅井の言葉に、冗談っぽさはない。

 俺はひとまず、フラれたショックから立ち直ろうと、気持ちを落ち着かせようとした。

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