第40話「最悪、最低」


ある日、住宅街店舗での出来事。

筆者はいつもどおり、夜から仕事をしていました。

しかし、この日はとんでもない出来事がありました。

その出来事を書いていきます。




午前4時20分頃。

割と暇であまりすることがない時間帯に丸い頭の剥げたオッチャンが入ってきました。年齢は50代くらいで筋骨隆々。作業着を着ていることから、恐らく、現場で働く人ではないかと思います。




「チュンチュン鳴っとるで」




と、入店直後、レジにいる筆者と目が合ったおっちゃんは開口一番そんな事を言ってきました。




何を言っているのかわからない。




スズメが鳴いているんだろうか?




一々、そんなこと話題に出すか?




どうも酔っ払っているらしい。




「はあ……」




としか言えず、頭を撚る。

おっちゃんはそんな筆者を気にせず、買い物をしていきます。変な客だなと思いつつも、気にしないことにしました。この時、レジには筆者は一人だけでしたが、しばらくして相方が飲み物倉庫(ウォークイン)の整理が終わって戻ってきました。おっちゃんしかお客さんがいなかったこともあり、少々談笑していました。




また少ししておっちゃんが買い物カゴに色々入れてレジに来ました。

おっちゃんはレジから少しだけ離れ、タバココーナーをじっと凝視しています。

筆者は気を利かせ「どちらお探しでしょうか?」と声をかけました。




「なんや、その上から目線は!」




怒鳴られました。




なんで?




めちゃくちゃ下出じゃないか……。




苛立ちついでにこちらの首根っこを掴もうとしてきたので、筆者はさっと距離を取って回避。殴られたらたまったものじゃありません。




「まあまあ、落ち着いて」




と、相方が仲裁に入ってくれました。

でも、今度は相方に矛先を向けます。

相方は論理思考が強い人間で理屈で物を考える人です。

怒鳴り散らすおっちゃんに色々反論し、持論を展開します。

一応、セコムボタン(緊急)のを押しています。

しかし、おっちゃんにはどうもそれは火に油を注ぐ行為だったようです。

おっちゃんは更に逆上し、相方の髪を思いっきり掴み、首根っこを掴みました。

その衝撃でレジの隣にある肉まんの什器がレジ側に落ち、中の水が床にぶちまけられ、レジ周りに置いている電子タバコ本体や見本などがレジから落ちていきます。




この時、筆者はスマホをレジの裏手にある台の上に放置していました。外人さんが来た時に対処する為、翻訳アプリで対応するためです。おっちゃんの力は強く、筆者では引き剥がせそうにありません。筆者は放置していたスマホで警察に電話しました。すぐに駆けつけてくれ、ひとまずオッチャンを外へと連れ出しました。セコムが来たものの、警察より遅かった……。




相方は怪我をしたものの、救急車を呼ぶほどではありませんでした。ほっとしつつ、その後、事務所にある防犯カメラを見せました。警察は時間をきちんと書き残す必要があるらしく、手持ちのタイマーを使って正確な時刻をメモに書いていきます。筆者はカメラを操作しつつ、状況を説明します。




ある程度状況を把握した警察は被害届を出すかどうか聞いてきました。ただ、どうも捕まえるのは微妙そうな顔をしていました。彼らの言い分はオッチャンが相方を掴んできた時に相方も手を出して反撃したということ。




「それは正当防衛じゃないんですか!?」




と、筆者は強く言い切りました。

殴られっぱなしでいたほうが良かったとでも言うのか?

それを言うとうーんと考え混んでしまった。

100%悪いのは向こうなのに……と、歯ぎしりしましたね。

筆者と相方はどうするか少し相談しました。




筆者「相手が完全に悪いんだから被害届を出すべきだ。ああいう奴は何でも同じことするぞ。また同じことされたらたまったもんじゃない!ここで被害届を出せば、それだけで奴の経歴に傷がつく。反省を促す為にも被害届を出すべきだ!」




筆者はそう強く主張しました。

いつも温厚な筆者を知っている相方は少し驚いていた様子でした。

ただ、彼は事情聴取に応じるのがどうしても面倒だと否定の意見でした。

彼は以前、万引き犯を捕まえた時に事情聴取を受けた経験があります。

それが長時間に及んだ経験から、被害届を出すのは難色を示しました。

筆者はそれからも強く言い続けましたが、今回怪我をしたのは相方ということもあり、どうするのかを決める決定権は相方が持っていると言っていいでしょう。渋々、彼の意見を尊重し、被害届は出さないことにしました。

一応、オッチャンは酔いが抜けたのか謝ってきましたが……。




「酔っぱらいの謝罪なんて大したことないわ」




と、相方は吐き捨てました。

ごめんな~という本当に軽い謝りだったそうです。

オッチャン、もっと丁寧に謝罪するべきだろ……。

損害賠償する可能性もあるため、相手の連絡先と名前は警察が控えてくれました。

それをこちらもメモしておきました。セコムは力になれなかったことを謝りつつも状況をまとめ、こちらも補足説明をし、その後で帰っていきました。




オッチャンも警察も去った後、倒れた肉まんを戻したり、中から床に溢れた水を拭いたり、残っていた仕事を片付けたりと作業を続けます。しかし、いらない疲れが心にも身体にも溜まり、しんどさを抱えつつ、仕事をしていくしかありませんでした。無駄にしんどいとはこういう事をいうのでしょう。




朝8時に仕事が終わり、事務所でくつろいでいるとオーナーから電話がありました。セコム(緊急)を押した場合は必ず、オーナーや統括店長に連絡が行くことになっています。相方に代わり、彼が事の顛末を簡潔に話してくれました。




筆者は先程、また同じような事をしてくるかもしれないと懸念を言いましたが、それはオーナーも同意見だったようです。後々、同じような事が起きてもいいように証拠として、怪我の部分をカメラで撮るよう指示され、すぐに筆者のスマホで撮り、店長(統括店長とは別の人)にLINEで送りました。




また、怪我をした相方は病院に行ってこいという指示です。相方は少々嫌そうな顔をしていましたが、仕方なく行ったみたいですね。役所と病院はどうしても時間がかかるものですが、オーナーの指示に逆らうわけにはいきませんからね。




オーナーはご丁寧にも筆者が帰宅した午前10時頃に筆者の携帯にお電話を頂きました。状況をなるべく丁寧に説明しました。




「今日はお疲れさん。これに懲りんと頑張ってな」




と、激励されました。

本当に有り難いことです。




「はい、ありがとうございます」




すぐにお礼を言いました。

オーナーとはあまり会うことがないのですが、こうやって激励して頂けるのは非常に嬉しく、心がほっこりしました。少しは心の疲れが取れた気がします。筆者はそのままゆっくりと夜勤の為に眠りにつくのでした。




……で、そのオッチャンは事件当日の昼ぐらいに来たらしく、オーナーに電話で謝罪したとのこと。もう二度とこんなことはしないと言ったらしい。




本当に二度と起こしてほしくないです。




でも、この人、今もたまに店に買い物に来てるんだよね。




どういう神経してるんだろうか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る