第16話「ファン」


コンビニの作業は慣れてくるとほとんど同じことの繰り返しです。

とはいえ、覚えることは多いので最初の内は苦労します。

コンビニ店員って楽なイメージが強いですけど、それはもう10年以上前の話。

今は割と大変だし、変な客も多いのでイメージが違うと辞めていく若い子も多い。

ですが、人間なんでも長くやっていれば慣れてくるものです。

退屈に思えてくる時もあるかと思いますが、そんな時、その仕事のどこで楽しさを見出すかが重要です。これが見いだせないと同じ作業の繰り返しで苦痛になります。

小夜子はそんな時、ファンの人や常連さんと世間話をする事で楽しさを見出しています。




変なお客さんもいますが、大体は普通の人達です。

話して仲良くなれそうな人には話しかけていきます。

とはいっても、相手が引いてしまわないよう、いきなりガンガン話したりはしません。最初は丁寧な挨拶や相手がいつも買うタバコを覚えてすっと出してあげたり、そういう気遣いをしていきます。仲良くなってきたら話しかけてあげるのがいいと思います。いきなりタメ口でガンガン話す人もいますが、その時はその人のテンションに合わせて話してあげると通じます。小夜子はそれを繰り返しているおかげでファンが増えました。遅刻魔の相方・T君は小夜子以上にコミュ力が高く、もっとファンがいます。こういう部分は素直に尊敬できますね。




さて、そんなファンの中でも小夜子には変わったファンがいます。

その人は30ぐらいの女性の方で「あ、元気してる?風邪治った~?」といつも尋ねてきます。しかし、小夜子が風邪をひいていたのはもう1年以上前の話なんですけどね。多分、マスクをして作業をしていたので、その光景が頭に残って離れないんだと思いますが……。




お姉さんはいつも酔っ払っていますが、小夜子には優しくしてくれます。いつも「ごめんね、酔っ払ってて。お兄さん会いたくてこの店来るんよ~」と仰ってくれます。こちらもお礼を言い、帰る際には「お姉さんも身体に気をつけてください」と声をかけてあげます。




お酒を飲んだ人ならわかると思いますが、お酒を飲むと感受性が多感になります。

普段なら怒らないようなことでキレだしたり、どうでもいいことで感動でしたり、ちょっとした優しさが心に染み込んだり……。まあ、酔っぱらいの人に優しくしても忘れる人が大半です。けれど、お姉さんは小夜子の事を覚えてくださっているそうで本当にありがたいです。彼女はいつも小夜子にコーヒーを奢ってくれたり、この前は飴(袋タイプ)を頂きました。




人間関係が辛く、コンクリートの壁が人間同士の壁を作り出す昨今。

接客のイメージは今も昔も辛く、厳しい仕事……というイメージがあると思います。

まあ、実際変な人も多いのも事実ですし、それはこの小説に書いてきた通りです。

どうしても気が合わない奴、偉そうな態度でコンビニ店員を下に見ている奴……。

あまりにも腹が立つ態度をされて、ゴミ箱を蹴っ飛ばしたこともあります。

けど、相手は同じ人間です。

嫌な奴もいますが、反対にちゃんと分かり合う事ができる人間もいます。

こちらが善意を持って接していく内に気に入ってくれる人は必ずいます。

そういうファンを何人作れるか……それが接客の醍醐味でもあります。

そういう人と話して心が和む内に嫌な部分だけじゃないな、接客って。

そう思えるようになってきます。























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