第29話 京子の想い
「だめだって!そんな物ばっか食べてたら!青野菜とか根野菜とかがいいんだよ!」
煎餅を食べている
みんなで食事をして以来、
いつも狭い部屋で何をするでもなくボーっとしていた
それに
調理の時も食事の時も、主導権は
「レタスいっぱい食べなきゃ!ほら、みんなも食べて!」
「たまには揚げ物が食べたいけぇ、明日は唐揚げ作ってぇや。」
「唐揚げ作ってもいいけど、食べすぎるなよ!肉に対して野菜は倍食べないといけないんだからさ!」
母は2人のやりとりを微笑ましいという顔で見ている。
「まあまあ、おばあちゃん。なんか、元気になったみたいですね。」
「自家菜園やろうかな。農薬使わないから体にいい野菜ができるんだって。」
「あら、そうねぇ。おばあちゃん、ずっとやってなかったですものね。」
「畑なら庭にあるけぇ。耕したら色々作れる。」
「おう!ばっちりじゃん!明日からやってみる!」
食事の後は、スマホを取り出し家庭菜園について調べた。
気分が落ち込んでいたせいで、ずっとほったらかしにして触る気にもなれなかったスマホが大活躍だ。
次から次に新しい情報の嵐。
次の日はとても寒く、外には霜がふっていて窓枠に薄い氷がはりつき日の光を反射してキラキラと輝いている。
「うう、寒い・・・。足腰が冷える・・・。腹巻きがどこかあったよな。ああ、寒すぎると膝が痛むな・・・。」
「行ってきます。」
「おいこら待て!何、その格好!?」
「ん?どうかしたか?」
よく見るとスカートを折り曲げて、とても短くしている。
「そんな格好で出たら風邪ひくだろうが!今日は寒いんだから!!コート着て!」
「別に寒くないけぇ、JKはこのくらい平気やけぇ。」
「寒いの!今日は寒いの!!体冷やしたら、病気とかにもなっちゃうんだからね!!」
「でも・・・・。」
「よし、これでいい!あ、そうだ!腹巻もいる?」
「いや、もういい。」
「・・・・・。」
「ちょっと待って!今の私ってすっごくババくさくない!!!?」
「やっべぇ!私、完全におばあちゃんやっちゃってるよぉ!やばいよ!でもでも、今日は仕方ないし!だって寒いから可哀想じゃん?そ、そういうことなのよ。決して私がババアと化したわけじゃ・・・・・。」
自分で自分を慰めていると
寒かったら可哀想だ。
風邪をひかせてはいけない。
毎日毎日、そう思っていたのだろうか。
「自分の体は病気のくせに人の心配かよ・・・・。」
「死なせるかよ・・・・。病気なんかクソくらえだ!」
朝の静けさがなくなり、太陽が昼になる準備を始めた頃、
もう一方の手に持っているスマホで昨日調べた事をもう一度探した。
「肥料がいるんだな。げっ!鶏糞とか使うのかよ!きったねぇな。あと肥料?石灰ってなんだ??」
調べれば調べるほど混乱してくる。
料理と違って触ったことも見た事もないものばかりだ。
とりあえず色々買ってくるのが先か。桑を置いてズボンに入れておいた軍手を放り出すと
「金がかかるな。」
そうつぶやくと、
「金、あるよな。」
罪悪感こそあったものの、金なくしては何も買えないと思い
「ババアの体のためなんだから使っていいだろ。どうせだったら道具も新しいの買ってこようかな。じょうろとか可愛いのが欲しいな。花も植えてみようか。
久しぶりに欲しい物がどんどん出てきた
今までお金があっても
しかし今なら買い物の楽しみがある。
引き出しを開け、いつもどおり金を引き抜いた。
そしてまた引き出しを閉めようとした時、罪悪感が通り過ぎた。
「なんで?だって、ババアが前、使ってもいいって言ってたじゃん。」
そう言って自分を納得させて再び半開きの引き出しを閉めようとした時、頭の中に痛みが走った。
「くぅっ!!!」
久しぶりの頭痛に
「ううぅ・・・。あの時と同じ痛みだ・・・。」
やっと痛みが引いてきたところで目を開けると
なぜかはわからない。
何があるのかも知らない。
なぜなんだろう。
手を伸ばして、引き出しの奥にある何かを取らなければいけない。
そう思った。
ゆっくりと引き出しを開け、奥に手をのばす。
引き出しの突き当りにさしかかる前に何かが手にあたった。
取り出してみるとそれは通帳だった。
「なんでこんな物が気になったんだろう?私・・・・。」
開けてみるとそこには、ずらりと入金だけの履歴が書かれている。
最後の入金日まで見てみると残高はものすごい額になっていた。
「うおっほぉ!やるじゃん!ババア!やっぱ金持ってると思ってたよぉ!これだけあればやりたいこといっぱいやれるじゃん!!」
急にその通帳が愛おしくなり、パラパラとめくってみたり、表紙のなんでもない絵を眺めたりしてみた。
しかし
【
「・・・・・え?」
通帳には
「なんで私の名前?」
すると一枚の手紙が出てきた。
開いてみると確かに
【
そしてもう一度、通帳を見返す。
二か月に一度、定期的に振り込まれている。
毎回、毎回、一度も欠かすことなく・・・。
自分でも頭がよくないとわかっている
その通帳を握りしめたまま
数着しかない古い服。そういえば
無いのではない、
「私のために・・・・?」
「好きな物買えばいいじゃん・・・・。こんなにいっぱいあるのに・・・・。」
「なんでだよ・・・・。こっちは盗んでまでババアの金取ろうとしてんのに・・・・。なんで与えようとするんだよ。」
罪悪感とも言えない悲しい気持ちが何度も
ひとり立ち尽くす
この空間を作ったのは自分だったのだ。
なぜ、今気づいたのだろう・・・。
なぜ、あの時はわからなかったのだろう・・・・。
なぜ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます