第35話 ありがとう
何日も雨が続き、やっと暖かくなった空気を一気に冷やしていく。
畑の野菜が恵みの雨に飽きたように、しおれていくのがわかった。
「水をあげすぎるのも良くないって言ってたな。」
晴れの日があって雨の日があって、暑い日も寒い日も乗り越えて野菜たちは強くなりおいしくなる。
「このままじゃ、野菜たちダメになっちまうよ、ババア。」
「
「え?うん・・・・大丈夫だけど?」
「畑見てるの?」
「うん、頑張って育てたのにさ、野菜の元気がないんだもん。雨ばっかり降るから逆にしおれちゃってさ。」
「ふふ。
母は笑いながら座って洗濯物をたたみはじめた。
その様子を見るでもなく
「そういえば、おばあちゃんが野菜を育てるのに一番大事なのは肥料やおひさまなんかじゃないって言ってたわよ。」
「え?じゃあ、どうすればいいの!?」
それを見た母はまた笑って答えた。
「それはわかんないけど。母さん、そこまで聞かなかったから。でもきっと土ね!土台が良くないとやっぱりいいものはできないものね。」
「そ・・・そっか・・・。」
母のせいで余計にわからなくなってしまった
もう何日も
自分の体に戻ってみると、これだけの日にちがたつと変に冷静に考えてしまうからだ。
あれだけ喧嘩していた
それに自分以外にも
次の日も次の日も雨。
やっと晴れの日が戻って野菜たちがへとへとになった頃、母が
「
「ううん、今日はやりたいことあるから。」
「そう。こんなこと言いたくないけど、おばあちゃんかなり体調悪いらしいの。だから、もうそろそろ・・・・・。できるだけ、お見舞いに行ってあげてね。」
母は少し泣きそうになりながら出かけていった。
その様子を見て
それと同時に体調の悪い
部屋で一人、何をするでもなくベッドに横になり天井を眺めていた。
「これじゃあ、体がババアだろうが女子高生だろうが何も変わらないな。」
こんな気持ちになるはずじゃなかった。
何も苦しみを知らないまま、女子高生のままただ毎日を過ごしていたあの日々。
あの時の自分になかった感情を
ふと、
「そういえば、ベッドの下が汚れてるって言ってたな。だったらババアが掃除してくれりゃいいのに。」
そう思ってベッドの下を覗いたが、思っていた様子とは違いキレイだった。
ホコリもないし、物も落ちていない。
ただ床よりも少し膨らみがある部分に気付いた。
ベッドの影のせいで何も見えなかったが
それが
ゆっくりと手を伸ばし、取り出そうとした時、
手紙を読むのをためらっていた
「もしもし?」
「・・・・。」
「もしも~し?」
「・・・・・。
「だれ?」
「・・・・・。」
何も答えない相手にスマホの画面を見ると非通知設定になっていて誰かわからない。
あまりにも沈黙が長いので、
「母さん??母さんなの?」
「
「うん、
「・・・・。」
「お前のおかげで楽しかった。ありがとう。」
その言葉を聞いた瞬間、電話の相手が誰なのか
そしてその言葉が何を意味するのかもわかっていた。
「ババア!!?」
そこで電話は切れた。同時に
「うあああ。」
目の前が真っ白になり
何かにひっぱられる感覚で白い世界が通り過ぎていく。
「ババア!ダメだよ!!」
「そんな!まだ行くな!」
命の灯が細く小さくなり消えていきそうになっていくのが
「ダメだって!!死なないで!!まだ死なないでよ!私まだ・・・言えてないのに!!」
必死に声とは言えない感情の世界で叫んだ。
すると
次から次へ色々な映像がものすごい勢いで流れていく。
その映像は小さい頃の
よちよち歩きでおしゃぶりをくわえながら歩いてくる自分の姿。
笑いながらアイスクリームをつけて走る自分。
七五三の着物姿。
手をつないで神社を歩く姿。
ランドセルを揺らして手を振る姿。
怒鳴り声をあげて物を投げつけてくる姿。
畑で作った野菜を笑って食べる姿。
全部、
これは
いいや、
いくつもの映像や声が自分のまわりで笑ったり泣いたりして通り過ぎていく。
それと同時に
映像が流れる速度が速まるほどに
昔の思い出とその想いが通り過ぎる度、
「なんでだよ・・・ババア。」
「なんで最後に思い出すのが私との思い出ばっかりなんだよ。」
毎朝怒鳴りながら玄関を出て行く
笑いながら誰かと電話している
その
一緒に散歩した幼い時も怒鳴り合いをした高校生の時も、どんな時も何も変わらず寄り添って同じ想いで接してくれていたのだ。
やがて映像は途切れ途切れになっていく。
最後に小さな光の中にすべてが吸い込まれいき、その光もさらに小さくなり消えていきそうになった。
その光が何なのか。
あの光が消える前に自分にできることは何なのか。
「ありがとう、ババア。」
白い光が消え、うっすら目を開けると部屋に戻っていた。
それと同時に鳴り響く電話の音。
その電話の知らせが何なのか
クソババアJK きらーな* @Kira-Na
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クソババアJKの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます