第22話 満たされない食事
最近の
何もしていないよりも通学する学生を高見の見物のように眺めるのは面白かった。
ただ
そのあまりの変わりように
「じゃあ行ってきます。」
「おばあちゃん、今日も見回り運動ですか?毎朝、大変ですね。行ってらっしゃい。」
母にそう言われて、またやる気を出した。
毎日毎日、ただ
無意識だったので、それがおかしいこととは思うこともなくなっていた。
「たまには場所を変えるか。よく考えたらここは小学生の通学路だし。あ、おはよう!元気に学校行けよ!」
何日も挨拶運動に来たせいで、自分から挨拶するのも上手になっていた。
これで近所から怖いおばあさんと噂されていたのも少しはなくなるかもしれない。
自分の高校への道のりに小さいな公園がある。
ぼーっとしていると、久しぶりに見る顔ばかりで、クラスメイトも何人も通り過ぎた。数週間ぶりに見たせいか、みんなが成長しているような子供に見えるような変な気分だった。
高校生ともなると挨拶してくる人も少ない。
『あ~学校行きたいなあ。こんな生活してるくらいなら学校行って友達と遊んでた方がましだったかもなあ。』
自分から学校に行きたいなどどと思ってしまったので、
でも正直な気持ちだ。
ずっと立っていると足腰も冷えてきて、風も吹いてきたので帰ろうかとした時。
うつむいて歩く暗い学生の姿が!
『もしかして
その学生がどんどん近づいてくる。
メガネを忘れたので老眼でよく見えないが、髪型はよく似ている。
そう思うと
自分でもそれに気付いたせいで今度は心臓が先ほどよりもドクンドクンと素早く高鳴りだした。
「おばあちゃん!おはようございます!!!」
その元気な声と自分を呼びながら笑う顔。まさに
『そう、それ。それが聞きたかったんだよ!それだけのために何日も挨拶運動してた
んだよ!』
声にも心の声にも出さない奥底の想いだけで
「この前のゲートボール大会どうでした?俺、出場できなかったんですよ。下手くそだからしょうがないけど。」
この言葉で
しかし、それだけで
「じゃあ俺、学校行きます。おばあちゃんも散歩楽しんでくださいね。」
『散歩じゃねーよ!お前に会いに来たんだよ!』
とは言えないので、
会話とも言えないようなやりとりだったが、
何も言えなかった事に後で後悔するであろうこともわかっていたが、喜ばずにはいられない。
その後ろ姿が、ちょっと前までは気持ち悪くて仕方なかった
その時、
その女子高生は、
え?だれ?
そんなイメージを持っていた
あの
ずっと下を向いていた
『もしかして彼女?』
そう思うと
家に帰りつくと、
鏡を睨んで自分の顔をぶった。
「ばっかじゃないの!
握りしめた拳が目につき、その拳の数えきれない皺とシミにイラついた。
「こんな顔!こんな体!!私が私だったら、あんな女なんか全然、目にもとまらなかったのに!!!」
「私の事好きだったんじゃなかったのかよ!ババアのせいだ!たぶん、そうだ!ババアが私の体で勝手に優等生みたいにしたから、
もうここまでくると
「私、なに挨拶運動とか偽善活動みたいなことやってんの!?ばっかみたい!なんなの、あの小学生!うっざ!マジでうっざ!!!!」
行き場のない悲しみに何かを恨むことが逆恨みだとは知っていても
悲しみにくれて、いつの間にか眠ってしまっていた
それどころか、夕食を母と話しながら楽しく食べているようだった。
母が運んできたのだろう。
ラップもしていない状態だったので、あたたかい物は冬の寒さのせいで冷めきっていた。
みそ汁・・・・ごはん。からあげ、コロッケ。母が作る料理は油ものがメインだ。
ただ空腹を満たすためだけに食べていると、自分がくちゃくちゃと音をたてて食べていることに気付いた。
昔、自分が
『ああ、汚い!!』
自分自身が汚く感じて仕方なかった。
うす暗い部屋で一人、何も満たすことのない食事。
今日という日を誰かに聞いてもらえるわけでもない苦痛。
遠くで楽しそうに聞こえる母と
何もかもが裏切り者で、自分を笑っているようにしか感じなかった。
あふれ出てくる大粒の涙が
悲しい。
寂しい。
食事を食べることで、最悪な事実が押し寄せてくるからだ。
『ババアはいつもこんな飯を食べてたのか。』
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