第23話 メイクをしたら
土曜日。
何やら朝早くから
入れ替わってから、あまり自分の部屋に入ることはなくなっていた。
なぜなら
重い体と痛い膝。何とか耐えながら、一段一段上がっていく。
よく考えると、
『こんなきつい思いをしながら、来てたのか。』
自分が本当に年寄りになった時、孫に同じことをするだろうか?自分の体を痛めてでも毎日毎日、言う事を聞かない孫の世話を焼けるだろうか?
「ババア!朝からうるせぇんだよ!何してんだ!?」
「でかける準備をしちょる。」
「でかけるって?何?買い物でも行くの?」
「そうだ。
「ええ!!自分だけ遊びまくってずるいじゃん!!こっちはババアの体になったせいで、何も青春できてないんだぞ!」
しかも、買い物に一緒に行くほど仲良くなっているとは。
「お前も遊んできたらええ。金ならあるじゃろ?」
しかし、
「金とかどうでもいいんだよ!!」
「なんでだ?ずっと金を欲しがちょったやろ?神社から盗んでたくらいなんじゃけぇ。」
「うるせぇな!今は金があっても仕方ないんだよ!私の体が欲しいんだから!!」
「お前はいつもいつも欲しい物が手に入らないでいるんやね。金があればあったで文句を言う。お前のまわりにあるものの有難さを知れ。それがわからんうちは、たぶんこの体も元に戻ったりはせんけぇ!」
「!」
何を言われても平気でいたが、今回ばかりは
「祟りじゃ・・・・・お互いに。」
お互いに?
入れ替わることで
実際、
それとも、
そう考えると苦しんでいるのが本当に自分だけなのか
出かける事自体を止めたのではない。
お洒落の仕方が意味不明だったからだ。
「遊びに行ってもいいけど、その格好はダメだ!」
「なんでだ?このスカートが可愛いけぇ。」
「そのスカートは親が勝手に買ってきたんだよ!今時、その柄履いてるJKはいないっつーの!」
「JK?」
「知らないの?JKって女子高生って意味だよ。」
「そうなのか、学校でみんなが言うから何のことかと思うちょった。」
『よくそれで学校でみんなと話が合うな・・・・』
そしてメイクをしてやった。
なぜか今日だけは大人しくメイクされている
自分の体だが
できあがった顔を鏡で映して見せてやると
「JKは、化粧しても綺麗やね。」
「いいか、ババアしばらく目閉じててよ。絶対開けるなよ。すぐ終わるから。」
「まだか?もういいか?」
その言葉を何度も言いながら、ひたすら待っていた。
すぐ終わると言いつつ、けっこうな時間がかかった。
「待ち合わせに遅れる。」
「大丈夫!もう終わるから。それにババアは早めに行きすぎなんだよ。さあ、もういいよ。」
「もう行っていいか?」
「よく見てよ!ほら!JKじゃなくてもババアでもメイクはできるんだよ!」
「私の顔に化粧したのか。何年もしていなかったな。」
「言っとくけどねメイクだけじゃないよ!ちょびひげも剃って、まゆも整えてるんだから!」
「ええね。すごくええね。」
「だろ!?年寄りも若返らせる私のメイクテクニック!どうよ!?」
「うん、ええよ。あんたにはその才能がある。化粧してる時のあんたは楽しそうだ。」
「え!?」
確かにメイクの腕には自信がある。それに今のこの瞬間、昨日の嫌な気持ちなど忘れていた。
ドクドクと心臓が高鳴るのがわかる。嬉しいのか、高揚しているのか、よくわからない。
「じゃあ、行ってくる。」
「う、うん。あ、私もついて行って遠くから見ておこうかな。」
「そうしたらええよ。」
そう言われた
友達とワイワイと話すわけではないが、用事ができたことで気分は少し盛り上がっていた。
支度をしている最中、電話が鳴った。
「ちょっとぉ!
「ああ!ごめん。すぐに行くから待ってて。ちょっとメイクに時間かかちゃってさ。」
「おっけぇ。早く来てよぉ~もうみんな待ってるしさぁ。」
「え?みんなって?他に誰がいるの?」
「ああ、これナイショだったわ。来てからのお楽しみにしててよぉ。びっくりするからさ。」
『もしかして
そう思うと
「さあ、ババア行くよ!」
と勢いよく
歩いていると通行人が、こちらを微笑ましそうな顔で見てくる。
ちょっと顔の怖いおばあさんと高校生。
今時、あまり見かけない組み合わせなのだろう。
その時、女子高生として恥ずかしいのか、年寄りとして恥ずかしいのか、わけがわからなくなっていた。
待ち合わせに着くちょっと手前で
黒いメガネに黒くて長い前髪。猫背の小さな体が
どう見てもそれは
『
気のせいか
その様子を見ると
しかし、その嬉しさも一瞬で消えた。
そう。
昨日、
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