第28話 真心の食事
「な、なに言ってんの!こ、こんなところで告白なんて!」
「ええ、わかってます。でもおばあちゃんに伝えておきたかったんです。」
興奮のあまり、
「俺、
「おばあちゃんにはそれを見守っててほしんです!いつか言ってましたよね?
しかしその純粋は告白の中に
「俺もいい男になれるように頑張るんで、おばあちゃんも病気と闘ってください。お願いします!」
どうやら
時代や年齢なども越えてしまう人と人との繋がりは、立場や場所が変わったくらいでは崩れないのだということを。
「きっと幸せにしてくれる?」
その言葉に
「もちろんです!!だから、おばあちゃんも頑張りましょう!大丈夫!きっと病気に勝てます!」
何の病気かも
けれど、確信もなくただ「大丈夫」と言われることにはひどく安心感を感じる。
「きっとね、
「!?」
「本当ですか、おばあちゃん!?そうだったら、うれしいけど。」
「うん、信じていいよ。」
『そうなんだ。私は
今は痛いところも辛いところもない。
お互い照れくさそうにしながら、そこで恋の話は終わった。
その後は学校の話や恐竜の話。ゲートボールの話など
「体が悪いのに、いっぱい話してくれてありがとう、おばあちゃん。」
「いいよ、私も楽しかった。」
「あの・・・・。本当に無理しない程度に頑張ってくださいね。俺、おばあちゃんが死んじゃうのはすごく辛いです。そんなの嫌です。だから・・・・。」
「わかってる。頑張るから。2人の約束だよね。」
「はい!!」
2人の約束。
奏 《かなで》は、いい男になること。
たったそれだけでいい。それが希望だ。
「やっぱり、おばあちゃんは
奏 《かなで》が部屋を出て襖を閉める前に、そう言ってにっこり笑って出て行った。
その笑顔のせいか、それとも奏 《かなで》が言っていた言葉のせいか、
すぐに検索サイトを開いて調べ出す。
【癌 闘う】
たったこれだけの二文字に大量の情報が出てきた。
どれから手をつけていいかわからないが、とりあえず色々見てみることにした。
違う検索ワードも調べた。
【癌 食事】 【癌 運動】 【癌 希望】
その中には、世の中で癌と闘う人々の記録。悲しくも亡くなってしまった人の物語。
食事のこと。
笑うことへの免疫力。
希望をもつことへの第一歩。
初めて目にする他人の人生ばかりがそこにはあった。
これほどまでに病気について調べたのは
そこには知らない事ばかりが書かれていて、普通だったら読まずに通り過ぎてしまうようなことばかりだろう。
しかし、今の
知らない人だとしても同じ病気を抱え亡くなっていった人々の物語というのは、こんなにも泣けるものなのか。いや、同じ病気だけではないかもしれない。世界中に生きたくても生きていけず、一生を終わった人たちもいるのだ。
必死に生きようと決心した。
『まだわけわかんない事ばっかりだけど、とりあえず何かしなくちゃ。』
その夜、
何と
「
「あ?ああ!見ればわかるだろ!?料理してるんだよ。」
「なんで急に・・・・。体がきついんじゃったら寝てたらええ。」
「あんな暗い部屋にいたら、それこそ死んじまうよ!」
まさか
「その顔やめてくんない?私がどれだけ最低なやつだと思ってるか知らないけどさ、やるときゃやるんだから。」
「わかっちょるが、なんで料理をしちょるん?」
「調べたんだよ!癌には野菜中心の料理がいいんだってさ!ほら、母さんの料理って油っこいのばっかじゃん?だから、私が作ろうと思ってさ。」
「今日の晩ご飯はまずそうだな。」
その台詞に
「何言ってんだよ!うまいもの作ってやるから!!ってかさ、人がやっと頑張ろうって時になんでそんなこと言うんだよ!ひどくない!!?これだからババアは!!」
冷静とはいえ、いつもの口調のままだったが。
ちょっとふてくされた顔をして
包丁を地面に落としたり、道具を探すのに何分もかかったり。お湯を沸かしているのを忘れ沸騰する時には別の作業が手放せなくて火を止めることもできない。りんごの皮むきも実ごと豪快に切ってしまい、デコボコの形になってしまう。
「け、けっこう難しいんだな。」
しかし、決して途中で投げ出すことはなかった。
「貸してみろ。」
食卓の椅子に座ってずっと見ていた
そして包丁を手にとると、リンゴの皮をすいすいと切り出した。
「すげぇ・・・。」
みるみるうちに、りんごの皮は繋がってらせんになり落ちていき、美しい形にむけた。
「包丁はこうやって持ったらいいけぇ。突き刺すようにしてたら、むけん。こうやって親指でここを押さえて皮にそってむいたらええけぇ。」
『うるせぇな!自分できるし!』
いつもならそう言ってたのではないだろうか。
しかし今日の
真剣に
そしてうまく10センチほどの皮をむくことができた。
「ほらほら!見ろよ、ババア!これできてるだろ!?」
「ああ、いい感じだ。」
「なあ、切り干し大根って何だっけ?どうやって作るの?」
「ああ、そういえば最近食べちょらんかったけぇね。作ってみようか。」
そんな会話をしながら時は流れていく。
ちょっとうまくできると『これで、
それでも
「私が料理した!信じられない!」
そう言うと
その時、母が台所にやってきたので、
「母さん!見て見て!!これほら!!私が作ったんだよ!すごくない!!味はわかんないけどさ、けっこううまくできてるだろ!?」
母がぽかーんとして
「おばあちゃん、どうなさったんですか?それくらいの料理ならいつも作ってらしたじゃないですか?」
それを聞いて
お互いの姿が見えているとはいえ、なぜか元に戻った気持ちでいたからだ。
すぐに
「あ、ああ。私が作ったんだ!すごいでしょ?」
「ええ!?
「じゃあ、ちょっと早いけど夕食食べちゃいましょうか?ね!」
「そうしよう。せっかく作ったのに冷めて食べたら勿体ないけぇ。」
「私がご飯をよそうわね。
「わかった。」
2人が話すのを
『そろそろ部屋に戻らないと・・・・。』
しかし、自分は部屋で一人で食べなくてはいけないのだ。
それを決めたのは間違いもなく、女子高生だった時の自分だから仕方ない。
渋々、
「ババア!」
後ろで
「ババア、何しちょるん?私が作ったんやけぇ、おいしそうに食べてるところ見たいけぇ一緒に食べよう。」
母を見ると、母は驚いた顔をしていた。
『
とでも言いたそうな顔だ。
「で・・・でも・・・。」
今まで自分がしてきた事を
散々、寂しい食事を一人でさせてきたというのに。
立場が逆になった今、仕返しだってできるだろうに。
「そ、そうね。
母もそう言うと笑って
食卓に並ぶ野菜中心の料理。味の薄すぎるみそ汁に、ねっちょりとしたお米。
塩辛くしすぎたお惣菜。
どれも口にするには美味しいとは言えないものばかりだったが3人は思い出話をして時には料理を笑いながら、ゆっくりゆっくりと食べた。
タピオカジュースよりもハッカ飴よりも何よりも、みんなの笑顔とともに食べるこの食事がこれほどまでに美味しいなんて!
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