第27話 奏の告白
テレビを見ていても、その中でニコニコと笑いながら話す人々が憎らしい。
『この人たちは、死ぬことも考えず生きている。明日死ぬかもしれないような私と違って楽しそう。』
そう考えるとお笑い番組だろうと笑うことすらできなかった。
むしろ、なにがそんなにおかしんだと恨めしく思ってしまう。
何もする気が起きず、明日のことばかり考えていた。
『何を話そう・・・・。
あの女子高生だ。
あの女の姿が焼き付いて悔しくなる。
そこに丁度、
テレビを見ている
「体の具合はどうだ?」
「別に、普通。たまに色んな所痛いけど、元から年寄りの体で痛いとこいっぱいあったし。」
「神社にお参りに行くか?」
「行かない。そんなの意味ないし。」
体育座りでテレビの方しか見ずに
しかし心の中では、そのそっけなさに罪悪感を抱いている。
昨日、
テレビの音だけが居間の不穏な空気を知らずに、音を立てていた。
「ババア、あのさ・・・。」
「どうした?」
止めたはいいものの、何を言おうとしたのかを口に出したくはなかった。
しかし、そんな事を言えるはずもない。
「あ・・・・。あの・・・・。そ、そう!昨日、みんなで遊んでたけど楽しかった?」
「ああ、いい子たちばっかりじゃけぇ。」
「そっか。」
「新しい友達もいっぱいできた。」
「あ、ああ。そうみたいだね。」
「私もこんな風に死ぬとわかってたら、もっと友達と遊んでたと思う。」
「何言っちょるん?死ぬ順番間違っちゃいけん。」
「ふぅ。もう、いいよ。入れ替わったのはババアのせいじゃないことくらいわかってる。」
いつも以上に素直な
「私は諦めてないけぇ。」
「私はもうどうでもいい。元に戻ったって、いいことないし。」
「
「!!!!」
いきなり
「な!なんで!?」
「
「ち、違う!!そんなんじゃ!!!」
焦れば焦るほど、その表情が好きと言わんばかりの顔になってしまう。
「あの子はいい子じゃけぇ。よくゲートボールの試合の時に話してたんよ。よく気の利く可愛い子じゃけぇ。あんたにお似合いじゃ。」
「!!!!!」
まさか
「だ、だから昨日一緒に遊びに行ったの???」
「そうじゃ。
「で、でもでも!!」
「あ、あの女の子・・・・。」
「女の子?」
「
聞くのが怖いし、顔は真っ赤で恥ずかしさでどうにかなりそうだったからだ。
「ああ、あの子か。名前は
「えええええ!!!」
「あ、あいつ、双子だったの!!?うそだ!」
「でもそう言っちょった。」
「あんな美人が双子!?」
「
「それ言うならイケメンイケメンだろ!慣れない言葉使うなよ。」
そんなやりとりの中で
「やっと笑顔が戻ったな。」
「え!?」
よくこんな状況で笑えるものだと感じた。今、自分は死ぬ目前だというのに。楽しいわけがない。
「それが希望じゃけぇ。」
余命があるのに希望などあるものか。
あるとしたら何に感じる?
しかしメイクをしている最中に不安になった。
『こんなとこで寝てるババアがメイクなんかしてたらバカみたいかな。』
『お洒落なんかしたら、目立って変な奴と思われるかもしれない。』
色々考えた末、メイクを落とすことにした。
洗面所に行き洗顔をしていると
「おはよう。何しちょるん?」
「顔洗ってるだけ。見ればわかるでしょ?あ、そうだ。今日、
「ほう、そうか。あの子はそういう子じゃけぇ。」
洗顔が終わり、部屋で時間が来るのを待っていたが、よくよく考えれば何を話していいのかがわからない。だいたい、体が痛くて身動きがとれないわけでもないし、お茶を出したりするべきなのかどうかもわからない。
変な緊張感が
『やっぱ来ないで』
あまりの緊張に
しかし
対応したのは
「よく、来たね。ババアの部屋は奥にあるから、そこまで行きな。」
「
「何も気にしくなくてええけぇ。さ、どうぞ。」
「お邪魔します。」
なぜだろう。
つまり、自分と
「うう・・・。やはり血のつながりは否定できないってやつか。」
コンコン
ノックの音が聞こえ
「おばあちゃん、おはようございます。入ってもいいですか?」
「ど、どうぞ。」
「失礼します。いきなり来てしまってすみません。
「ああ、来ること聞いてたよ。」
「そうですか、良かった。」
元彼の
「
「そ、そうなんだ。わざわざありがとう。若いのにえらいね。」
「へへ。」
年寄りっぽく演じてみたが、
恥ずかしそうに笑った。
「あ、これどうぞ。食べられるかわからないけど、お饅頭です。」
「あ、ありがとう。」
ぎこちない仕草の自分に違和感を感じているのではないかと
「病気は悪いんですか?」
「うん、まあ・・・。たぶん。よくわかんない。」
「そうなんですね。」
一瞬、部屋の中が太陽の下を通りすぎる雲の陰と同時に暗くなった。
「し、死ぬかもしれないんだ。」
「!!」
その一言に
長い沈黙が続いた。
「あ、でも、まあ・・・。人間はいずれ死ぬからさ!だ、大丈夫!」
自分が暗い気持ちになりたくないというよりは、
「ほ、本当大丈夫だから!今の冗談!ね!何かしゃべりなよ!」
それでも
「あんたが悲しむと私まで暗くなっちゃうじゃん。何か言いなよ。」
少し体を震わせているようだが、顔を見ると真っ赤になっていた。
な、泣いてる・・・・???
せっかく楽しくおしゃべりできると思っていたのに、この調子では涙を流して終わりになってしまう。
ハラハラしているうちに、時間が過ぎていく。
しばらくして、やっとしゃべりだしたのは
「おばあちゃん。」
「え!?な、なに?」
「お、俺。決心してることがあるんです!」
「決心?な、何???」
しかし
「俺、おれ・・・・。」
「え?そんな真剣になって・・・・なに?」
「俺、ずっと言っておきたかったんです。」
「だから何を!?」
「俺・・・・・。」
「ちょっと気になるじゃん!は、早く言ってくれない?」
なかなか続きを言わない
そしてやっと
「俺、
「!!!」
穏やかな朝の陽ざしが一気に
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