第14話 待ち合わせ

弥琴みこは朝早くから京子きょうこをたたき起こした。

高校生の時は、朝起きるのがきつくてたまらなかったものだが、京子きょうこの姿だと、なぜか早く起きれた。


久しぶりに自分のクローゼットを開けて、その中でも一番お気に入りの服を取り出して京子きょうこに着せた。

自分の体に着せていくというのも不気味な感じだ。


京子きょうこは寝ぼけているのか、何も言わずただフラフラと立っていた。


「ババア!しっかり起きろ!メイクできねぇだろうが!」


「うるさい。高校生は肌が綺麗なんじゃけぇ、メイクなんかせんでええ!!」


「じゃあ、なんでババアはいっつもメイクしてねぇんだよ!皺もシミも見せ放題じゃねぇか!メイクは若い時にするんだよ!」


京子きょうこは、その言葉に少々気分を悪くしたようで何も言い返せずに黙った。たとえ年をとっていようとも女として若さのことを言われると傷つくのだろうか。




髪の毛から足の先まで丁寧にセットされた。


「さあ、行くよ!」


弥琴みこは、京子きょうこの手をひいた。


「どこに?」


「いいからついて来い!」


「わかった。ちょっと待て。」


京子きょうこはそう言って机の方へ歩いていき、その上にあるバッグを手に取った。


弥琴みこは、京子きょうこと一緒に急いで待ち合わせの場所まで向かった。

待ち合わせの時間よりも少し早く着いた。


「なぜここに来たん?」


京子きょうこが今度は目をしっかりと覚まして聞いた。


「待ち合わせてるから。私のかわりに彼氏とデートして!」


「彼氏!!私が別れてやったのに、なんでまた会うんか!」



弥琴みこは、桃夏ももかの見送りをするよりも真輝まきに真実を聞きたかった。


弥琴みこ。私はあんたが桃夏ももかの見送りに行くと思っちょった。」


「今日が出発の日って知ってたのか。」


「まあ、色々知り合いから聞いちょるけぇ。」


桃夏ももかにはメールで謝る!だから今日は真輝まきに本当の事を聞いて!お願い!」


弥琴みこ京子きょうこにお願いごとをしたのは、いつぶりだろうか。

喧嘩ばかりの2人がそんなことを言うことなどなかった。


「ババアが言うとおり、もしかしたら私の彼氏は浮気してるかもしれない。しかもそれって桃夏ももかの友達なんだ。でも私は真輝まきを信じたい!私とつきあいたいって言ってるんだ。お願い。真実が知りたいの・・・・。」


こんな友達関係の事は母親や父親にすらしゃべったことなどない。

でも今の弥琴みこにとって、わかってもらえるのは京子きょうこしかいないと思った。

弥琴みこが、あまりにも深刻そうな顔をして話すので京子きょうこはため息をついた。



「話はわかった。」



「そうか!良かった。ほんの少しでいいんだ。ちょっと話してくれるだけでいいから!」




「絶対に嫌だ!」




「はあ!?今、わかったって言ったじゃん!」


「話がわかったってだけじゃ。あんな男と付き合っちゃいけん!今からでも間に合うから桃夏ももかの見送りに行こう!」


「なんでだよ!今日、彼氏と会わなかったら今度こそ愛想つかされて浮気されるかもしれないだろ!」


「そんな事で愛想つかすような男をいつまでも男と思うな!」


「!」


京子きょうこが久しぶりに大声を張り上げたので弥琴みこは、驚いた。


「いいか!友達も男も何も変わらないんじゃけぇ!あんたの事を想い、本当に大事にしてくれた人の事をないがしろにして生きるな!」


「・・・・。」


「浮気したかどうかも信じられんような男の話をあんたは、いつまで信じちょるんか!そんな男とつきあうほど、お前は安くないだろ!」


「うっ・・・。ババアに何がわかるんだよ・・・。」


なぜかこの時、京子きょうこに言われた一言に違和感を感じた。

今までずっと京子きょうこは自分のことをけなしていると思ってきた。

けれど、この言葉はまるで自分のことを守ってくれているように感じたからだ。


それでも、弥琴みこは、彼氏を信じていた。


真輝まきは、本当はいいやつなんだよ。なんで一回しか会った事ないババアにそんな事がわかるんだよ!私の彼氏の事、何も知らないくせに、ひどい事言わないで!!」


「・・・・。」


真輝まきは、寒い時自分のジャケットを私にかけてくれた。辛い時悩みも聞いてくれた。それに対して私は何もしてやってない。だからいいの!浮気くらいされたっていいの!」


弥琴みこは、自分の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。


浮気されてもいい?本当にそんな事を思っているわけではない。

ただ京子きょうこに何か言い返したかった。



「そうか。」


「そう、いいの。だからお願い。今日は真輝まきに・・・・。」


弥琴みこは、そう言いかけた途端、京子きょうこの後ろにある人影を見つけて青白くなった。



見てしまったのだ。



真輝まきとその隣の女の子が腕をくんで仲良く歩いて来る姿を。

その女の子は弥琴みこも知っている。話したことはないが見た事がある。

桃夏ももかの友達だ。



弥琴みこの表情に京子きょうこも気づき、後ろを振り返った。

それに気づいた真輝まきが近づいてきた。



京子きょうこの2、3歩手前まで歩いて来た時に真輝まき京子きょうこは目があった。

真輝まきがにっこりと笑ったので、弥琴みこはその笑顔を見て、思った。




『そうか、何か理由があってその子と腕をくんでいるんだね。』




そう思ったと同時に、真輝まきはまるで透明人間のように京子きょうこの事を無視して笑顔で横を通りすぎた。



「知り合い?」


桃夏ももかの友達が真輝まきに尋ねた。


「え?だれが?だれもいなかったよ。」


その会話に弥琴みこは、地獄へ落ちる思いだった。




終わった・・・・。




私は人生で最悪な選択をしてしまった。

大切な友達をよりも最低な彼氏を選んでしまった。



だからきっとひどい仕打ちを受けたんだ。




桃夏ももか、ごめんね。』




弥琴みこは、真輝まきの本当の素顔に絶望するよりも、見送りに行けなかった桃夏ももかへの罪悪感でいっぱいだった。




「ババア、私が間違っていた。もう、行こう。」


そう言って涙を拭きながら京子きょうこの手を掴もうとした瞬間、京子きょうこ弥琴みこの手を振り払い、勢いよく走りだした!



「ババア!何を!!」



信じられないくらいの加速とまるで宙に浮くかのような軽やかなジャンプ!

両手に拳を握りしめ、すらりとまっすぐ固く伸ばした右足を勢いよく真輝まきの背中へと投げ降ろした!!




「うぎゃっぽああ!」



変な叫び越えをあげて真輝まきは倒れこんだ。



弥琴みこは、唖然とした。

まるでスローモーションのように京子きょうこの強烈なキックの姿が一瞬一秒逃さずに心に焼きついた。






「何、しやがんだよ!このクソ女!」


真輝まきが怒鳴り声をあげたので、桃夏ももかの友達が今度は目が点になっている。



「うるさい!このゲス男が!!!」



「フラれたくらいで、人にケガさせていいと思ってんのか!警察呼ぶぞ!こらぁ!!!」



今まで見たこともないくらいの真輝まきの怒りっぷり。

それに何も動じない京子きょうこの姿をただただ弥琴みこは、見ていた。





「警察でも何でも呼べばええ!!でも私の孫に二度と手を出すな!!今度近づいたら警察も呼べんくらいボコボコにしてやるけぇね!!!」







弥琴みこの目から、さっきとは違う想いの涙があふれた。

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