第25話 病院で
目が覚めた時、
病室のベッドである事には気づいたが、自分が
その声をかき消すようにベッドの周りのカーテンがシャーっと音を立てて開いた。
「おばあちゃん、目が覚めたんですね!ああ、良かった!」
「母さん・・・・?」
それを聞いた
「
その時やっと自分が
「お腹が痛い・・・。」
「そうっすか。先生に検査してもらったんで、すぐに良くなりますから!」
「おばあちゃん、
「少しは・・・覚えてるけど・・・。」
「そう。あのね、今回倒れたのも病気の悪化のせいだそうですよ。だからね、このまま入院しましょうね。」
「え?病気?やだ・・・・。私、入院するの?いつまで?」
「そうねぇ、そこは先生に聞かないと。」
のんびりとした母の声に対して
「
「え!!癌!!???」
癌・・・。
抗がん剤治療もしていない!!?
じゃあ余命は?
なんで?
なんで治療をしないの??
今、自分の体は
自分の体が病に侵されているということではないということ。
それでもショックでたまらなかった。
「私、いつまで生きるの?」
「・・・・・。おばあちゃん、治療を受けてください。少しでも長く生きられるようにしましょう。ねっ。」
母の憐れむような瞳に
よくもそんなにのんびりとした考えができるものだ、と。
その時、再びカーテンが開き今度は
みんな一斉に
「悪いけど、ババアと2人きりにして。」
「で、でも・・・・。」
返事に困ったのは、母の方だった。
おろおろとしながら、2人きりにしていいものかどうか迷っているようだ。
一方、
「悪いけど2人にしてくれる?」
「は、はい。じゃあ・・・・。」
病室には、他の患者さんがカーテン越しに寝息を立てている音しか聞こえない。
静かに
「黙ってて悪かった。」
その一言に
「なんで黙ってたの?っていうか、いつから?」
「かなり前からじゃけぇ、覚えとらん。」
「な・・・なんで治療うけないんだよ?死ぬつもり?」
「そのつもりだ。」
「な、なんで!!バカじゃない!?わざわざ死ぬなんてさ!」
「治療を受けて長生きしても、もうただの年寄りじゃけぇ。だれにも迷惑かけんで死にたいんよ。」
「も、もう充分、迷惑かけてるだろうが!みろよ!私、入院だってさ!」
「悪かった。病気の年寄りと入れ替わるなんて、お前には悪夢でしかないけんねぇ。」
「私・・・・・死ぬの?」
「絶対に死なせん!」
「し、死ぬじゃん!私この体のまま、死ぬしかないじゃん!どうしてこんなことになったんだろう・・・・。私、怖い・・・・。」
「大丈夫じゃけぇ!お前を死なせたりせんけぇ!」
「なんでそんな確証もないこと言えるの!?ババアはいいよな!だって高校生の体なんだもん!病気でもないし、友達とも楽しく遊べるしさぁ!私なんかこの年でこの体だよ!しかも癌で死ぬなんて!!」
両手を握りしめて、悔しがっているようだ。
「毎日、神様にお祈りしてるけぇ。」
「そんなことが何になるんだよ。」
「今できることがあるはずじゃけぇ!お前と私が入れ替わったのも何かの天罰じゃ!行いを改めて正しい方向へ行けという天からのお告げじゃ!」
「マジで意味わかんない!!どこかの宗教じゃあるまいし!だいたい、私がいったい何したって言うんだよ!普通に生活して普通の高校生やってただけじゃん!犯罪も犯してないし、私のどこに天罰が下るって言うの!?」
日の光が入って部屋全体がその暖かさを受けとめている。その穏やかな風景が
「もう、いいよ。もう死にたい。いっそ、殺してよ!」
そこまで言い切った時、
痛っ!
声に出す暇もないほど一瞬のことだった。
一瞬の沈黙の後、やっと
「な、なんでぶったの!?どうして・・・・。ババアはいっつもそうだ!私の事悪く言うばっかじゃん!」
「・・・・・。」
「なんで何も言わないんだよ!?どうせ私なんか産まれてこなきゃ良かったとか思ってんだろ!?近所に私の悪口ばっか言いふらしてさ!!こんな孫いらないって思ってんだろ!早く死ねって思ってんだろ!」
涙があふれて止まらない。
泣けば泣くほど辛い記憶が蘇り、あることないことまで責めてしまう。
悲しくて悔しくて惨めだった。
「もう、いや・・・。死にたい・・・。」
ひたすら泣く
「お前に今できる事はなんだ?」
「・・・・。」
「私はもう年寄りじゃけぇ、死んでもかまわん。もう充分じゃ。」
「・・・・。」
「じゃけど、お前は死んじゃいけん。きっと元に戻れるはずじゃけぇ。」
「ひっぐ・・・・。」
「必死に生きちょったら、きっと何とかなるけぇ。」
それを聞くと尚、涙が溢れてやまない。
『
興奮していた気持ちが収まってくると、
それを認めるのは悔しかったが、どこか救われた気分にもなった。
一日入院したのち
母はひどく憤慨していたが、話し合いの末、入院しての治療はしないことにした。
退院の付き添いには母も
後ろから見送る看護婦さんが
「すてきなご家族ですね。」
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