13 推理パート(2)
「よって、マリーさんは犯人ではありません」
その場に、再び静寂が訪れる。
そして、たっぷりと自分でも考えてからにしたのだろう。
公爵が、その沈黙を破った。
「……うむ。確かに、〈人魚の歌〉が一度は多くの者に聞こえた以上、彼女が歌えば、それは多くの者に聞かれることになることは証明されている。しかし、歌が聞こえたのはその極めて短い時間の一度きり。……彼女が犯行を実現するためには歌でディーンを操る他になかった以上、それが不可能だったと分かった今、やはり彼女は犯人ではないと言えるだろう。
……マリー君、
公爵は、深々と頭を下げる。
兵士長も「本当にすまなかった」と頭を下げ、兵士たちが慌ててそれに習う。
「い、いえ、皆さん、顔を上げてください……! こうして罪が晴れたのですから、私はもう平気です」
マリーはいきなりのことにあたふたして手をわたわたさせつつ、そう言った。
「ありがとう……しかしこんなにも素敵な女性を一度は疑ったとは、心から恥ずべきことだな……。そしてイマジカ君には、また借りをつくってしまったようだ……。亜人差別の撤廃を掲げる私がその亜人を冤罪で捕らえたとあっては、計画は取り返しのつかないダメージを負っていただろう」
「とんでもないことです。公爵閣下のその悲願は、同時に、王女の悲願でもあるのですから」
「うむ……本当に、感謝する。……だが……」
公爵は下げた頭を戻し、イマジカに尋ねる。
「やはりこれでは、何かがおかしい。……イマジカ君、きみは最初に、この事件の犯人がわかったと言った。しかしマリー君も無実だったとなると、ここに集められた容疑者の誰にも、犯行は不可能だったことになる。
……では、君の言う犯人とは一体、誰だというんだ? まさかここに来て、ここにいる人間以外にまだ犯行が可能だった人物がいたとでも言うのか――?」
――それは、当然の問いだ。
イマジカが指定して集めた容疑者たち。
彼女はその容疑者たちを少しずつ除外していって……最後に残ったマリーをも、除外してしまった。
まさか、イマジカ自身がそれに気付いていないということはないだろう。
(どういうつもりなんだ、イマジカ……)
俺を含め、全員の視線がイマジカに向いている。
そして彼女はその中心で立ち止まって、宣言した。
「ええ、私はこの事件の犯人が既に分かっています。そしてそれは、ここまでに一度容疑者から除外した人物の中にいます」
「なっ……!?」
思わず、声を上げていた。
他の面々も同様に、驚き戸惑っている。
「……つまり君は、ここまでに出たアリバイの内の何れかを覆すことができるというのだね?」
「はい。その通りです」
困惑気な様子の公爵の問いに、イマジカは事も無げに答える。
そしてイマジカは声量を上げ、力強く続けた。
「ヴィスタリア公爵の仰るとおり、私はここまでに、ある人物のアリバイを崩すための証拠を手に入れています。ある人物とは、すなわちこの事件の犯人のことです。
その人物は――」
――誰もが、彼女の言葉に耳を傾けていた。
次に続くであろう人物の名前が、自分ではないことを祈りながら。
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