俳句倉庫

愛宕平九郎

第一編(~2020年10月)

【ホタルブクロ】

 ――『闇光る ホタルブクロに 恋の影』




【ちょい短編】

 漆黒の闇に浮かぶ、薄い黄緑色の光。

 一つ、また一つ……。

 どこからともなく、ぼんやりと現れ、フラフラと当てもなく彷徨っている。


 その中で、チカチカと点滅している光があった。

 何かのサインだろうか。

 しばらくすると、その点滅は次第に弱まり、やがては電池が切れるかのように、ゆっくりと消えていった。


 ――ごめん。お待たせ。

 ――もう、遅かったじゃない。どこで遊んでいたのよ。


 点滅する光の側に、もう一つの大きな光が寄ってきた。

 よく見れば、その周りには紫色の釣鐘のようなものが映し出されている。

 どうやら二つの光は、その釣鐘の中から放たれているようだ。


 もう明るくする必要はなくなったのか、中を照らす紫色の部屋は、全く姿を現さない。

 しかし、釣鐘の中で睦まじく動く二つの影は、今も妄想の世界で蠢いている――。



【ひとこと】

 庭のホタルブクロが咲き始めました。

 釣鐘のように美しく頭を垂れる紫色の花は、その様子から「釣鐘草」「提灯花」「風鈴草」などのような季語に変えて使われる事もあるようです。


 ホタルブクロの名は、「花の中に蛍を閉じ込めると、その明かりが外へ透けて見える」というのが由来となっています。もしも、夜中に飛び交う蛍が花の中へ入り、光を灯して恋人を呼べば、二人で仲良く過ごす影も透けて見えるのではないか……そんなイメージで綴ってみました。

 庭に蛍が来た試しはありませんけどね……。



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