【春雨】

 ――『春雨や咥え煙草の火は消えぬ』


 季語は「春雨」。

 春に降る雨の中でも、こまやかに降りつづく雨をいう。一雨降るごとに木の芽や花の芽が膨らみ、生き物達が活発に動き出すイメージまで浮かべば満点の解釈と言えそうだが、この句には春らしい活き活きとした様子は無い。

 霧のように細かい雨が降り続く春雨は、数ある雨のジャンルでも濡れに濡れるタイプの雨だと愛宕は思う。傘は要らないだろうと油断して歩いているいると後悔する、そんな雨だ。


 春雨の降りしきる中、一人の男がコンビニの喫煙コーナーにいた。パーカーにジーンズのラフな格好は、仕事が休みなのかあるいは……ともかく、周りに仲間もおらず一人で佇む姿は目立っていた。

 壁に背を預け、咥え煙草でスマホの画面を見ていた。指の動きから、ゲームに興じている感じでは無い。文章か、もしくは漫画か、夢中になって画面に集中していた。店内の見えるガラス面の部分は庇があるが、喫煙コーナーには雨を凌ぐものが無い。当然、そこに居た彼はパーカーの色も変わるくらい雨にぐっしょりと濡れていた。フードも被ってなかったので、髪も濡れていた。

 それでも煙草の火は消えず、彼の呼吸に合わせて先端がチリチリと赤く染まったり消えたりしていた。電子タバコも普及し、咥えっぱなしで煙草を吸う姿なんて見るのもレアな昨今、なんとなくシュールだなと感じ見たままを句にしてみたもの。


 そんなシーンを十七文字にしたところで、なんのこっちゃと思う方が多いかもしれない。なんせ愛宕自身も、ちょうど小説ネタでイメージしていた人物像に近かったので特別に目が入っただけなのだから(笑)

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