【春待つ】

 ――『春待つや藪柑子やぶこうじの実あと一つ』


 季語は「春待つ」。

 長く厳しい冬が一段落して、寒い中にも春の訪れを感じる頃合い。空気もどことなく凍てついた様子が薄れ、遠くから「春の匂い」のようなものが鼻を擽る。春はまだか、早く来て欲しいと願う気持ちを高める効果を出すような句が求められる。


 春の気配を感じると、つい上の方を見てしまいがちだが、ふと目線を下に向けると一粒の藪柑子の実が残っていた。夏に白い花を咲かせ、冬でも枯れることのない緑の葉と小粒の赤い実を見せてくれるのが特徴だ。

 以前は複数の赤い粒が実っていたが、鳥が食べてしまうのか春の訪れと共に一つ二つと消えてゆく。残り一つとなったところで、冬と春が入れ替わるような気がして詠んだもの。


 実は、この句はとなっている。(藪柑子が冬の季語)

 俳句は季語を一つにするのが基本であり、季重なりは避けるべきことと言われている。季語が二つあるというのは、例えとなるか知らんけど「寿司とドーナツを同時に食べる」ようなもので、それぞれの持ち味がぶつかり双方を殺してしまうケースが多い。

 本来なら指摘を受けてもおかしくはない句なのだが、投句しても特にマイナスとはならなかった。指摘を承知で投げたものが、すんなりと受け入れられたレアなパターンでもある。

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