【蝶】

 ――『ベンチにて五分やや動く蝶の翅』


 季語は「蝶」。

 ご存知の通り、彩り鮮やかな大きな翅を持ち、花の蜜を求めてひらひらと舞う昆虫である。春を代表する季語として「蝶々、胡蝶、蝶生る、春の蝶、眠る蝶、狂う蝶、小灰蝶、胡蝶の夢、岐阜蝶、双蝶、緋蝶、だんだら蝶」など、派生する子季語の数も多い。


 のんびりとした昼食後のひと時、公園のベンチに座ってスマホを見ていたのだが、ふと横を見やればベンチの端っこで蝶が翅を休めるように止まっていた。見たことのある蝶だけど、その名前はわからない。シジミ? アサリ? モンシロとかアゲハとか、そんな類ではないことは確かだ。

 正確な時間は言えないが、たぶん五分くらいは経っていたと思う。いつになったら動き出すのか、こちらも意地になって動かない蝶をジッと見続けていた。すると、根負けしたかのように、少しだけ、ほんの少しだけ翅が動いた。しかし、蝶は飛び立つ気配も無く、再び翅の動きを止めた。


 なんて事のない場面と時間だが、こういうひと時を持って何かを感じたのは久しぶりだった。忙しさを理由にして、自分で勝手に視野を狭くしていたことを反省する時間でもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る