【ブルームーン】
――『
【ちょい短編】
見晴らしの良い丘の上。
太陽が照らす頃は、一面の芝生が緑色に輝き――。
月が照らす頃は、この丘から見渡す限りの街灯りが輝いている――。
「今日の月は青く見えるね」
天体の事は詳しく知らないけれど、ブルームーンという月があるらしい。特別に見えるわけではない。ただ、満ち欠けの関係で、月に二回ほど満月が拝める事をブルームーンと呼ぶようだ。それでも、僕には月が青く見えていた。君はこの青い月に対して、特別な感情を抱いていたよね。どうしてかは教えてくれなかったけど、君にとって特別なものは、僕にとっても特別なものなんだ。
「結婚しよう」
ブルームーンが見える特別な日を選んで、僕は君にプロポーズした。君は泣きながら頷いてくれたね。大袈裟だなぁと心の中では思っていたけれど、僕には想像できないほどの喜びが君にはあったんだと、後になってわかったよ。あの時の僕は……ただ驚くばかりで、泣いている君を優しく包むように抱き寄せたっけ。そんな僕たちを、夜空から見届けていたブルームーン……暗い丘の上で抱き合う僕たちを祝福するかのように、青白いスポットライトを当ててくれた気がする。
「綺麗だよ」
目の前の君は、美しいドレス姿だった。二人で決めた純白のドレス。月の光の悪戯か、白い生地なのに少し青みがかって見えていた。でも、それはそれで素敵だった。月明りだけでは、君の表情を読み取る事は難しかったけれど、きっと照れくさそうに笑ってたんだよね。
「これもブルームーン?」
君は「そうよ」と嬉々とした表情で頷いた。君が両手で抱えていた鉢植えには、青い花が仲良さそうに集まっていた。仲が良さそうに見えたのは、たぶん僕が君の笑顔に癒されていたからだと思う。花の名前は『ルリマツリ』。ブルームーンとも言われているんだってね。この丘の上に建っている僕たちの家を、ブルームーンで一杯にしたいという君の望み……不思議と無謀な事だとは思えなかった。二人で少しずつ足していけば、いつかきっと君の望みも叶うだろうと思っていた。
「どう? そこから見えてるかい?」
ブルームーンの夜が訪れるたびに、僕はルーフバルコニーから月を見上げて君へ語りかけてきた。どれくらいの年月が経っただろう? ブルームーンの夜と、僕たちの家に咲き誇るブルームーンが重なる時……この日の僕は、想い出の深いシルバーのタキシードを着ていた。もう一度、君と永遠の愛を誓うために、僕はブルームーンに手を差し伸べて君を迎える。
ブルームーン。
君にとって特別なものは、僕にとっても特別なものなんだ――。
【ひとこと】
このカクヨム内で『Blue Moon』という詩を拝読しました。
触発? という感じで、ふとインスピレーションが浮かび句にしてみました。最初は俳句でまとめてみたかったのですが、上手い季語が浮かばない。ならば、文字を足して短歌にしてしまおうという感じで句が完成☆
ルリマツリという可愛らしい花に、ブルームーンと名付けられた品種があると知ったのは、この句を考えている時でした。なんとなーく、関連付けてみようかなと……半つる性の常緑低木なので、ネモフィラのように地べた一面というイメージにできなかったのが、少し反省点かな――。
本当は、ハッピーウェディングとかジューンブライドとか……明るいイメージで短編を書ければ良かったのですが、愛宕の根暗な性根では上手くいかないのです(笑)
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