【虎が雨】
――『虎が雨巻き戻せない捕球ミス』
季語は「虎が雨」。
陰暦の五月二十八日に降る雨のこと。「虎」は虎御前(鎌倉時代の遊女)を指す。曾我兄弟の兄、十郎が新田忠常に切り殺されことを、愛人の虎御前が悲しみ、その涙が雨になったという言伝えに由来する。だいぶ限定的な季語ではあるものの、敢えてこれを使ったのには理由がある。
一、雨の季語を調べていたら、これが出てきてカッコいいと思ったから。
二、意味合いは悲しさが上に立つが、悔しさも表現できそうだったから。
三、寅年だったので、虎の文字を使いたかったから。
陰暦の五月二十八日は、今で言うところの六月二十日を過ぎたあたり。
この頃は、ちょうど全国各地で甲子園の地方大会が熱い時期だ。県の代表を勝ち取るために、それぞれの高校がそれぞれの想いを秘めてグラウンドに上がる。そんなイメージを加味してもらってから、この句はスタートする。
試合は終盤、僅差でリードしている高校が守備に入った。対する攻撃側は、ヒットとバントで得点圏内にランナーを進める。次のバッターは打つ気満々。そして、痛烈な打球を三遊間に放った。
しかし、そこには捌きに定評のある遊撃手が待っていた。ここで抑えれば、勝利に一歩近づくというもの。冷静に捌いてセカンドランナーを仕留めるか、もしくはセカンドの動きを見てファーストに投げるか。どちらにせよ、守備側が有利……の、はずだった。
打球は遊撃手の股の間を抜けてしまった。
このエラーがきっかけで点差はひっくり返り、試合は終了となる。一つの動きが引鉄となって、不利有利の展開が大きく変化するのが高校野球の特徴でもあり、見ている側の醍醐味でもある。プレイヤーやその家族、関係者たちには申し訳ないが、これもまた「高校野球だ!」と胸を熱くさせるドラマだ。
試合に負けた後、グランドで悔やむ選手たち。そこに雨が降り出した。
あの時のエラーは巻き戻せない。そんな悔し涙と雨の情景が「虎が雨」のイメージと結びついた。
こちらは「第三十三回 伊藤園お~いお茶 新俳句大賞」に投句したもの。
六句投げた中で、これが二次選考を通った。この句を詠んだ背景や気持ちを「百五十文字以内」で手短に説明し、次の選考へ進んだ結果、佳作の賞状が届いた。残念ながら、佳作はペットボトルのパッケージには載らない。
昨年は二次選考まで、今年は佳作。さぁ、来年へ向け新たな準備だ!
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